いまやITスキルとネットリテラシーが人生を大きく左右する時代だ。こうした中で文部科学省が2019年に発表した「GIGAスクール構想」は、現代のニーズに合った学びを実現する方法として注目を集めた。特に小中学校の児童生徒(以下、生徒)に1人1台のPCまたはタブレット端末を整備する目玉施策は、その動向が話題になった。
「1人1台端末」の整備は、コロナ禍でのデジタル化推進の波に乗って着々と進んでいる。21年7月時点で、対象の小学校と中学校の約96%で端末を使い始めた(※)。新しい学習が始まったが、1年以上たった現在の状況を見ると導入した端末を活用し切れていないというのが実情だろう。
※文部科学省「端末利活用状況等の実態調査(令和3年7月末時点 速報値)」より
ICT端末を使って何をできるか、授業をどう進めればいいか、どのような教材を役立てられるか――新たな形態の授業に向き合う教師が抱える課題の解決は急務だ。そして学校教育の現場をよりよい方向に導くのが、EdTech(エドテック=教育×テクノロジー)の役目といえる。
そんなEdTechの最新動向を紹介する展示会「NEW EDUCATION EXPO」(NEE2022)が、6月2〜4日に開催された(※2)。“未来の教室”を体験する模擬授業やさまざまな学習ツールを展示しており、EdTechの可能性を示すイベントだ。専門学校の講師として10年近く教壇に立っていた筆者の経験を交えつつ、NEE2022をレポートする。
※2 主催はNew Education EXPO実行委員会(内田洋行が企画)。後援は文部科学省など。
NEE2022の目玉は、未来の教室を再現したショールーム「Future Class Room」(フューチャークラスルーム)の公開だ。これは教育機関向けにICTシステムの構築を手掛ける内田洋行(東京都中央区)が開発したもので、普段は同社のオフィスに設置している。教室を模した空間にプロジェクターやカメラ、マイク、スピーカーといった機材を備え付けおり、教師は機器の設定といった事前準備なしに授業を始められる。
Future Class Roomでは、遠隔地にいる生徒たちをオンラインでつないでスムーズにリモート授業やコミュニケーションできる環境を整えている。さらに、教師がカメラに向かってジェスチャーをして指定のアプリを立ち上げたり、教室にいない教師がICT機器をリモートコントロールしたりといった機能を実現している。
NEE2022の会場では、教室風の空間にFuture Class Roomの環境を再現していた。最前列の机上にのみWebカメラ搭載のタブレットPCが置いてあり、その他の参加者は自前のスマートフォンやタブレット、またはQRコードを読み込めるカメラ付きPCなどを使って模擬授業を受ける。
教室の天井には複数台のプロジェクターがあり、壁面いっぱいに教材や、遠隔地にいる教師や生徒(役の人たち)の顔などを映し出していた。複数台で映像を投影できるので、インタラクティブな授業が可能になる。
PCなどを使う一般的なオンライン授業では、生徒や教師の顔は画面を分割した枠の中で小さく表示されるだけだ。しかしFuture Class Roomではほぼ等身大で投影しているため、まるで同じ空間にいるかのように感じられる。
模擬授業は、教師の質問に対して生徒役の参加者が自前の端末を使って回答していく流れで進んでいった。
質問への回答はWebブラウザのアンケートフォーム機能を使うので、特別なアプリのインストールは不要だ。たまたま筆者の使っているiPhoneはストレージの空き容量に余裕がなかったので、これはありがたかった。実際にGIGAスクールで使う端末の要件はストレージ容量が少ない場合もあるため、ブラウザだけで完結するのは現場の混乱を避けるのに役立つだろう。
回答用のフォームは、投影されたQRコードを読み込んでアクセスする。送信ボタンを押すと、参加者がそれぞれ提出した回答結果をシステム上でリアルタイムに集計する。集まった回答は次々に壁に映し出されるので、問題の正誤もすぐに分かった。
全員の回答を等しく全員が閲覧できるので、特定の人の意見が目立ちすぎることはない。思えば、小中学校では目立つ人や積極的な人の意見が取り上げられがちだった。挙手に消極的な人は、自身の頑張りをなかなか評価してもらえない。筆者が講師をしていた頃を振り返ると、えこひいきをするつもりがなくても、目立つ子に声を掛けることが多かったような気がする。
しかし1人1台端末が実現し、教師の質問に全員が回答するこのような仕組みが定着すれば、積極的に挙手して発言しないタイプの生徒も等しく評価されるだろう。そもそもGIGAスクール構想のコンセプトの一つは「誰一人取り残さない」だ。Future Class Roomの模擬授業を通して、そんなコンセプトを実現できるかもしれないと感じた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR