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“未来の教室”ってどんなの? 「GIGAスクール」が定着した教育現場の姿 体験して分かった価値と課題(3/3 ページ)

» 2022年07月29日 07時30分 公開
[渡辺まりかITmedia]
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生徒は学びやすく、教職員は負担削減につながる「L-Gate」

 スマートな教室で、デジタルな教材を活用すれば豊かな学びにつながるはずだ。しかしこうしたITツールを使う際のひと手間が課題になるかもしれない。

 少し想像してみてほしい。テレワーク中に「さあ、仕事を始めよう」とPCを起動したものの、会社で使っているクラウドシステムにサインインしたり共有フォルダにログインしたりと、実質的な作業を始めるまでに時間を取られてしまったという経験はないだろうか。

 社会人ですら手間取るこれらの作業を、生徒たちが教科やツールごとにしていては大変だ。サポートに回る教師の負担にもなってしまう。45〜50分の授業時間で毎回このようなことをしていたら、1年間でどれほどの損失になることか。

 こうした課題を解決したのが学校向けの学習ポータルサービス「L-Gate」だ。文部科学省のオンライン学習システム(CTBシステム)である「MEXCBT」(メクビット)に対応し、生徒は自分のPCからWebブラウザでL-Gateを開くと、各種の学習コンテンツにアクセスできる。

photo 学校向け 学習eポータル「L-Gate」の画面

 L-Gateを使えば、デジタル教科書やドリル教材といったコンテンツを配信するサービス「EduMall」や、個人向け学習ツール「デジタルスクールノート」「ART CALL BRIX」、テストなどを行えるCBTシステム「tao」などをスムーズに使える。ドリルタイムもこのL-Gateと連携可能だ。

 これをうまく活用すれば、教科書や資料集の閲覧や学習結果を保存するたびにIDとパスワードを使ってサインインするという手間が不要になる。オンライン授業の場合、不具合が起きても1対1での対応は難しいため、L-Gateさえ使えれば大丈夫という安心感もある。

 L-Gateのシングルサインオンは、学習コンテンツ以外に「Microsoft 365」「Google Workspace for Education」にも対応している。例えば、L-Gateにサインインしておけば「Google フォーム」を使ったアンケートも簡単にできる。

 教師側のメリットは、授業開始ごとに準備の時間を取られないというだけではなく、生徒たちを簡単に見守れる点だ。教材やアプリの利用履歴を生徒ごとに把握できる他、Microsoft 365やGoogle Workspace for Educationのアカウントの登録や年次更新、卒業や転校に伴う削除などを手軽にできる。生徒一人一人の席に行き、端末を操作するのに比べて作業が大幅に減るだろう。生徒たちに向き合う時間を、準備や作業に回さなければならないといった無駄もなくなる。

1人1台端末が実現したいま、その活用方法を真剣に考えるとき

 ここまで取り上げたもの以外にも、興味深い教材はたくさんあった。例えば、専用の地球儀をアプリで写すと地球に関係したさまざまな情報を表示する「ほぼ日のアースボール ジャーニー」だ。Webサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」などを運営するほぼ日(東京都千代田区)が作った。一見すると国境線と国名が載るシンプルな地球儀だが、AR技術を活用した専用アプリを使うと、地表の温度や雲の動き、各国の国旗、人口やGDPといった情報を見ることができる。雲の動きなどはリアルタイムで変化する様子を反映している。理科や社会科を楽しみながら学習できるだろう。

photo 奥にある白い地球儀「ほぼ日のアースボール ジャーニー」にタブレットをかざして、地球の“今”を見ているところ。

 これまで本記事で取り上げたものは、ICTを活用したりユニークなアイデアで学習をサポートしたりするツールだった。1人1台端末が実現したいま、それをどう活用するかが大切だ。適切なツールを使えば、生徒たちの学習意欲を高める、自主学習を後押しするといった効果を期待できる。さらに生徒の学習姿勢や理解度を把握できれば、より効果的な授業を作る参考になる。

 一方で、教師がこれらツールの使い方を身に付けて生徒たちに教えられるほどの習熟度にするには、時間が掛かると感じた。せっかく便利なICTツールを教育に役立てる環境が整っていても、ツールを使いこなすまでに手間が掛かるのでは仕方ない。ツールの提供企業には、教師に分かりやすく使い方を伝える人材の拡充や、「難しそう」という抵抗感をどれだけなくせるかが課題だろう。

 従来的な教育を受けた私たち大人から見ると、プログラミングやARを活用した授業はまだ先の未来のように思えるかもしれない。しかしNEE2022で見てきた姿が、教師や生徒が向き合っている現実だ。そうした教育現場に対して、よりよい学びを提供できる方法があるかもしれないし、もしかしたらビジネスチャンスになるかもしれない。NEE2022は、そうした教育とテクノロジーの可能性を強く感じる展示会だった。

【訂正履歴:2022年8月4日午後6時40分 当初、NEW EDUCATION EXPOの主催者を文部科学省としていましたが、正しくはNew Education EXPO実行委員会(内田洋行が企画)でした。】

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