埼玉県のほぼ中央に位置し、約11万7000人の人口を抱える鴻巣(こうのす)市。文部科学省が打ち出す「GIGAスクール構想」に従い、全国の教育委員会が「生徒1人1台のPC」などの施策を進める中、同市はGIGAスクール構想が発表される前に独自のICT教育施策を進めていた。
その結果、全国でも珍しい「公立小中学校が活用する教育ICT基盤のフルクラウド化」を4月に実現し、教員が自宅などにPCを持ち出せる環境を整えられたという。
「研修や会議の場にPCを持ち込む教員が増えてきた。民間企業ではごく当たり前の光景だが、PCの持ち出しに厳しい制限が掛かっている教育現場ではとても新鮮。県の研修の場に鴻巣市の教員がPCを持ち込んだりすると、他市の教員からうらやましがられることも多々あるらしい」
クラウド化の影響について、新井亮裕さん(鴻巣市教育委員会 教育部 教育総務課主任)はこう話す。教育現場のデジタル化に加え、教師のワークライフバランス改善にも貢献したという一連の取り組みは、どのように成し遂げられたのか。鴻巣市教育委員会による施策の一部始終を新井さんに聞いた。
ICT基盤刷新の検討が始まったのは2018年。鴻巣市ではこれまで、学校での校務や授業で利用されるシステムの大半を市庁舎に設置したオンプレミスサーバで運用していた。しかし、当時利用していた機器類のリース期限が20年8月に迫っていたことから、これを機にICT基盤を時代に沿ったものに刷新することを決定。
19年には「鴻巣市学校教育情報化推進計画」を取りまとめ、教育委員会を挙げてICT基盤の刷新に取り組むことを決めた。基盤を刷新しようと考えた背景について、新井さんはこう話す。
「現在、国際的な産業競争力のトレンドがICT産業に移りつつあるにもかかわらず、現在の日本の教育は工業社会のモデルを基に作られている。OECDの国際的な学習到達度調査『PISA2018』でも、学校の授業におけるデジタル機器の利用時間がOECD加盟国中で最下位になっていた。こうした状況を変えていきたいという問題意識があった」
この計画では、新しい教育ICT基盤を全てクラウド環境に移行することを定めた。クラウド化を決断した理由は大きく分けて2つ。1つは運用効率や耐障害性の改善だ。
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