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目が悪いとうつ病になりやすい? 治療のため眼球に電気刺激 ラットで改善効果ありInnovative Tech

» 2022年08月09日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 香港大学、中国のUniversity of Chinese Medicine、香港城市大学による研究チームが発表した「Antidepressant-like effects of transcorneal electrical stimulation in rat models」は、眼球に電気刺激を与えると、うつ病や認知症(アルツハイマー病など)の改善につながる可能性を示した論文だ。動物モデル(ラット)において、うつ病の緩和や認知機能を改善することを発見した。

ラットの眼球表面に電気刺激を与えると、抗うつ作用や認知機能の向上が確認された

 これまでの研究では、動物の脳の前頭前野に電気刺激を与えると記憶機能が向上し、うつ症状が緩和されることが知られている。だがこの手法は、脳に電極を埋め込む侵襲性の高い手術が必要で感染症や術後の合併症などリスクが大きかった。研究チームは非侵襲的に治療できる方法を模索していた。

 そこで、非侵襲的に目の角膜表面を電気刺激する既存の治療法「経角膜電気刺激」(Transcorneal Electrical Stimulation、以下TES)に着目した。TESを用いた研究のほとんどは、視覚機能への改善に焦点を当てたものであり、非視覚系への影響、特に精神的影響については広く調査されていなかった。

 先行研究で、視覚障害とうつ病や不安の症状との間に双方向の関連があることが知られていることから、このTESがうつ病や認知機能に効果があるのではと考えた。TESがうつ病の前臨床モデルにおいて抗うつ効果を誘発するという仮説を検証した。

 実際にラットの角膜にTESを与えた結果、脳の経路を活性化することで、抗うつ薬を投与したような抗うつ作用の誘発とストレスホルモンの減少が確認された。また、海馬の脳細胞の発生や成長に関わる遺伝子の発現が誘導されることも確認された。

 さらに研究チームはアルツハイマー病の治療に応用できるかどうかをラットで検討した。その結果、記憶力が飛躍的に向上し、アルツハイマー病の特徴の一つである海馬におけるアミロイドβの沈着が減少することが確認された。

Source and Image Credits: Yu, Wing Shan, Tse, Anna Chung-Kwan, Guan, Li, Chiu, Jennifer Lok Yu, Tan, Shawn Zheng Kai, Khairuddin, Sharafuddin, Agadagba, Stephen Kugbere, Lo, Amy Cheuk Yin, Fung, Man-Lung, Chan, Ying-Shing, and Chan, Leanne Lai Hang.“Antidepressant-like effects of transcorneal electrical stimulation in rat models”



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