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YouTubeで不正に収益化する6つの悪用方法、米研究者らが分析結果を公開Innovative Tech(3/3 ページ)

» 2022年08月17日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]
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マルチチャンネルネットワークによる所属クリエイターへの未払い

 マルチチャンネルネットワーク(Multi-channel network、以下MCN)とは、YouTuberのマネジメントを行う芸能事務所のような団体を指す。日本ではUUUMなどが分かりやすいだろうか。得られる収益もいったんMCNに渡り、所属する個人のクリエイターに支払われる。

 研究者らは、クリエイターがMCNに参加する3つの不正な理由を発見した。1つ目がGoogle AdSenseで禁止されてコンテンツの収益化ができなくなったクリエイターがMCNに参加するケース。コンテンツからの収益はまずMCNに分配されるため、所属することで収入を得る可能性がある。

 2つ目がクリエイターが脱税の手段としてMCNへ加入するケース。上記の理由により、収入がクリエイターの口座に直接入らないため、税金申告や監査で注目されにくくなるという。暗号通貨で支払うMCNを求めるクリエイターの需要も確認された。

 3つ目はGoogle AdSenseを利用できない国のクリエイターがMCN経由でなければマネタイズできないため加入するケース。AdSenseは、キューバ、北朝鮮、イランなど、米国国務省によって機密扱いとして指定された多くの国で制限されている。これらの国のクリエイターは、MCNと提携することでこれらの制裁を回避し、コンテンツを収益化できるようになるという。

 そんなMCNだが、多くのフォーラムにおいて、MCNがクリエイターへの支払いを留保しているという議論を研究者らは確認した。上記で述べたように、コンテンツから発生する収益はいったんMCNに支払われてから、MCNがクリエイターに決められた報酬を支払う。

 悪質なMCNだと、この報酬を支払わずに保留するわけだ。この保留の議論に関して、研究者らは3つの知見を得た。MCNは、(1)虚偽の正当性を主張する、(2)クリエイターとのコミュニケーションを遮断する、(3)クリエイターに対して提携を維持するよう強要してくる。

 (1)では、「支払いはPaypalによって拒否された」「コンテンツの最低再生回数を達成していないなどの虚偽の要件」「ネットワークに損害を与えるコンテンツである」など、うその理由を並べてごまかそうとする。(2)は、クリエイターがMCNにメールを送っても返信されないといった無視行為を指す。

 (3)では、支払いを拒否されたクリエイターの中には、MCNとの関係を解消したいと思う人が出てくるだろうが、自ら契約を解除をすることができないケースがあるという。例えば、「契約上、12月までは辞められない」などだ。

MCNによるコンテンツの窃取

 YouTubeにはContent IDというシステムがある。これは誰かがYouTubeにアップロードした動画に対して、自分の著作物が侵害されていた場合に申し立てが行える、著作権者を保護する目的に設置されているシステムだ。

 申し立てを行うと、動画の公開を取り消したり、またはそのまま動画を見れるようにしたまま広告収入(YouTube Music Premiumなどの有料サービスも含まれる)を自分(アップロード者ではなく著作権者)に入るようにしたり、アナリティクス情報を取得したりできる。

 例えば、ピコ太郎の「PPAP」(Pen-Pineapple-Apple-Pen)の動画が流行った際、まねした動画コンテンツがYouTubeに大量にアップロードされた。それらはContent IDで処理され、発生した収益はピコ太郎が所属するエイベックスに支払われた。

 このようにContent IDは、見方によっては収益を生む副産物となる。そのため、悪意あるMCNは所属するクリエイターのContent IDを乱用して他の無所属クリエイターに著作権侵害で攻撃するケースがある。MCNの多くが所属クリエイターのContent IDの権限を保有していることが多いからだ。

悪質なMCNがContent IDの権限を悪用する仕組みの概要

 複数のオンラインコミュニティーの投稿を分析すると、YouTubeのアカウントやコンテンツ関連サービス(ビュー、購読者、コメントなど)を不正に販売する複数のオンラインマーケットプレースを発見した。これらのサービスを利用して、悪質なクリエイターがアカウントを購入し、登録者数やコメント数なども購入し偽っていた。

 オリジナルのコンテンツを盗んで外部サイトへトラフィックを誘導し、個人情報を取得したり、収益を得たりしていた。また、オリジナルのコンテンツを盗む際、YouTubeのポリシーや著作権の検出を回避するためにさまざまな偽装編集を行うテクニックも確認された。

 MCNとクリエイターの関係は、YouTubeのエコシステムに不可欠な要素となっており、両者の関係は相互に有益であるとされているが、実情はクリエイターに害を与える状況がよくあると分かった。MCNによるクリエイターへの支払い保留や、Content ID権限の乱用などが挙げられる。

 以上のように、このような不正行為は、クリエイター、視聴者、サードパーティーに直接/間接的に被害を及ぼす、非常に悪質な行為といえるだろう。

Source and Image Credits: Andrew Chu, Arjun Arunasalam, Muslum Ozgur Ozmen and Z. Berkay Celik.“Behind the Tube: Exploitative Monetization of Content on YouTube”



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