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服に敷いた線路をシュッシュッポッポ 体中を移動する小型ロボット 健康状態をモニタリングInnovative Tech

» 2022年09月07日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 米メリーランド大学(University of Maryland)と米UC San Diego(University of California, San Diego)の研究チームが開発した「Calico: Relocatable On-cloth Wearables with Fast, Reliable, and Precise Locomotion」は、衣服に線路を敷き、その上を移動するロボットシステムだ。全身を移動できる設計で、適切な場所まで移動し健康をモニターしたり、モーションを監視したりに活用できる。

衣服に整備した線路上を移動する小型ロボット
手や肩、脚などロボットはさまざまな部位に移動できる

 フィットネストラッカーやスマートウォッチなどのウェアラブルデバイスは着用者の健康をモニタリングできるが、着用している場所は1カ所なため理想的な計測は難しい。例えば、上半身の前面や背面から呼吸を計測する方が最適である。

 研究では、服の上を動き回り健康をモニタリングする小型ロボットシステム「Calico」を提案する。Calicoは、服の上に敷いた線路を最大227mm/sの速度で小型ロボットが移動する。ジョギングやスクワットなどのやや激しい動きをしてもロボットは振り落とされない。

 着用者の動作で変形した衣服に対しても強固な移動を実現し、上着とズボンの継ぎ目の横断もできる。衣服に直接ロボットを接触させているのではなく、整備したレールに接触させているからこのような利点が得られる。これにより、前腕から背中、大腿から胸部といった身体の異なる部位を素材の変形や布の継ぎ目に関係なく長距離移動できる。

 ロボット本体は着用者への衝撃を最小限に抑えながら確実に移動するために、線路を車輪2つで挟む仕組みで人体や衣服に直接触れない設計になっている。車輪は直径18mm。2つのモーターを使用することで独立駆動を実現し垂直でも逆さになっても強固に移動できるようにしている。

ロボットの外観と分解図

 線路は軽量でありながら身体の動きを妨げないような柔軟性、ロボットが脱線しないような剛性が必要だ。柔軟な中央部(プラチナシリコーンゴムを使用)を、平板2枚で上部と下部から挟み込んだ線路に仕上げている。平板だけでは脱線防止に不十分なため、平板にライブヒンジパターンのインレイを挿入し強化した。さらに位置の把握と適切な場所で止まれるように、円筒形のネオジム磁石を線路に50mmの間隔で埋め込んだ。

線路の断面図

 上着とズボンの連結部分は通常は離れており着脱者の動きの妨げにならないようにしているが、ロボットが通過する際は線路の端にあるマグネットコネクターを手動で接続しつなげることで横断できるようにしている。

 さらに鉄道の転車台のような回転式スイッチにより、服の上で線路の切り替えができる。例えば、下の画像の胸元にその転車台が備わっているが、下から来たロボットを左右に振り分けることができる。

衣服用に整備した線路の一例。胸元に転車台が備わっており、上着とズボンの接続部は着脱が可能になっている。

 ロボットは着用者だけにとどまらず、外部にも移動させられる。例えば、1日の終わりにキーハンガーに移したり、別のユーザーの衣服に移したりすることが可能だ。どちらも移動先に線路をあらかじめ整備し、先端のマグネットコネクターで手動でつなげて移動させる。

(上)キーハンガーにロボットを移動させる様子、(下)異なるユーザーにロボットを移動させる様子

 応用例としては、胸当たりに移動し聴診を行う、腰や肩、肘などの関節部に移動してトレーニング時の動きを監視するなどが挙げられる。

胸部聴診やトレーニングの監視に活用する事例

Source and Image Credits: Sathya, Anup, et al. “Calico: Relocatable On-cloth Wearables with Fast, Reliable, and Precise Locomotion.” arXiv preprint arXiv:2208.08491 (2022).



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