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絵師の“AI学習禁止宣言”に意味はあるのか? AIに詳しい弁護士に聞いてみた(1/3 ページ)

» 2022年09月08日 12時00分 公開
[松浦立樹ITmedia]

 画像を自動生成するAIが話題だ。「Midjourney」や「Stable Diffusion」などが生成した絵のクオリティーにネット上で驚きの声が上がる一方、「mimic」に対しては「悪用の危険がある」という声も多い。自分の絵は“AI学習禁止”と宣言する人も出てきた。

 mimicは、AIサービスを手掛けるラディウス・ファイブ(東京都新宿区)が発表したAIイラストメーカー。自分が書いたイラストをアップロードすることで、自分の絵柄にそっくりな画像をAIが生成するというサービスだ。

絵の個性を反映したイラストを無限に生成できるAIサービス「mimic」

 しかし発表直後からTwitterでは「他人の絵を学習して自分の作品と発表するなど悪用のリスクがあるのでは」などの声が殺到。これを受け、ラディウス・ファイブは発表からわずか1日でサービスを停止。不正利用を防ぐ仕組みができ次第、正式版として再リリースすることになった。

mimicの今後の対応について(一部)

 その後、SNSで活動するイラストレーターを中心に「私の絵をAIに学習させることは禁止です」など“AI学習禁止宣言”をする人たちが現れた。しかしこのような宣言で、AI学習への利用を禁止できるのか? 日本ディープラーニング協会の有識者委員を務めるなど、AI領域の法務に詳しい柿沼太一弁護士に話を聞いた。

“AI学習禁止宣言”に法的拘束力はない

 柿沼弁護士は「Twitterをポートフォリオとして使い、プロフィール欄に“二次転載禁止”などのルールを書く人がいると思う。そこに加えるように“AI学習禁止”など一方的に記載しても、契約は成立しないため法的な効力は持たない」と話す。

 日本著作権法30条の4第2号では、著作物を情報解析する場合、著作権者の利益を不当に害するケースを除き、原則として著作権者の承諾を取らずとも自由に利用できると表記している。AI開発のためにデータを学習させることは、この情報解析に該当するため、たとえSNS上で宣言をしても、法的に禁止にはできないという。

日本著作権法30条の4(全文)

 一方、この法律が適用されるのはあくまでAIにデータを学習させるなどの開発を行う、学習フェーズまで。人間の描いた絵を学習したAIに生成指示を出して、学習した絵と同じものを出力した場合は著作権侵害に該当する。「AIの学習を禁止にはできないが、AIが生成したものに文句はいえる。これは人間のクリエイターが著作権侵害をした場合と同じ扱い」(柿沼弁護士)

 ではAIの学習フェーズとは何を指すのか。柿沼弁護士によると、画像生成AIならばデータを学習させて、それをAIモデルに組み込む段階までを指すという。

 「AIモデルには学習したデータがそのまま入っているわけではなく、それをパラメータ(数字の集合体)に分解したものが入っている。データベースとは違い、AIモデルのプログラムを見ても、既存のデータは復元できない。そのためこの段階まで著作権法30条の4は適用される。以降、AIモデルを使って新しい絵を生み出すのは利用フェーズとなり、適用外となる」(柿沼弁護士)

学習フェーズと開発フェーズの概要図(STORIA法律事務所の公式ブログから引用

 MidjourneyやStable Diffusionは、開発側が作成したAIモデルを公開し、ユーザーはそれを利用するサービス形態で、上述の説明と合致する例になる。一方、mimicはユーザーがデータを学習させてAIモデルの作成までできるサービスであり、MidjourneyやStable Diffusionとは立ち位置が異なる。

 mimicを使い、ユーザー側が他人の描いた絵を学習させる場合も著作権法30条の4は適用されるという。mimicで問題となる場合は、AIモデル生成のため学習させた画像と、出力結果がほとんど同じであったとき。もしmimicに15枚の画像を学習させて出力の指示をして、学習に使った画像と似たものがなければ著作権侵害とはいえないと、柿沼弁護士は説明する。

 日本著作権法30条の4が適用されるのは、利用者が日本国内で作業し、利用するサーバが日本国内にある場合のみとなる。この場合、AIモデルへの学習利用は法的に無効にできない。もしクリエイターがAI学習を防ぎたいのならば、Webサービスなどにあるようにチェックボックスを使い、絵を見せる前に利用規約に同意させる方法などがあるという。

 「この形であればAI学習への利用に制限をかけることができるが、こうしてしまうと絵を見に来るユーザーが少なくなってしまうと思う。そのため、ここまではできない、もしくはしない場合が多いのでは」(柿沼弁護士)

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