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絵師の“AI学習禁止宣言”に意味はあるのか? AIに詳しい弁護士に聞いてみた(2/3 ページ)

» 2022年09月08日 12時00分 公開
[松浦立樹ITmedia]

mimicはなぜ炎上したのか? 柿沼弁護士の見解

 続いてmimicが炎上してしまった理由について、柿沼弁護士に見解を聞いた。柿沼弁護士自身はmimicを利用できなかったと前置きした上で、AI学習禁止宣言のように学習フェーズと利用フェーズの違いが周知されていないことが原因ではないかと推測。また、画風をまねされることに対して、非常に強い拒否感を示す人が多いことも要因ではと持論を述べる。

 「画風というのはアイデアなので著作権は存在しない。AIの学習データと生成物が似ていなくとも“画風をまねされて絵が作れる”が著作権侵害に当たると考えてしまった人が多かったのではないか。絵をまねた、まねてないの線引きはとても難しい問題だが、感情的な意見が多くなってしまったのが炎上の原因では」(柿沼弁護士)

 続けて柿沼弁護士は、仮にmimicのサービス自体が違法であった場合、今後生成系AIでビジネスを行う際に「とても大きな問題になる」と警鐘を鳴らす。

 前述の説明のように、AIモデル生成のために学習させた画像と、そのAIの出力結果がほとんど同じであった場合は著作権侵害となる可能性が高い。一方、大量のデータを学習した生成系AIで出力する際、普通に使えば著作権侵害になり得る生成物を出力しないが、指示によっては違法な画像を出力できる場合、ツール提供者(開発者)側も違法となるのかという問題が発生する。

 柿沼弁護士はこれについて「極端な話、“少しでも違法な生成物を出力する可能性があるツールは著作権侵害になるので全て違法”と決めてしまうと、日本でビジネスができなくなる。昔で言うと“Winny事件”(※)と似ている。ユーザーが違法行為をしたことで起こる著作権侵害と、ツール提供者の責任については分けて考えるべき」と話す。

 続けて「mimicはモデルをつくるツールで、モデルですらない。著作権侵害からはもっと遠い。ユーザー自身が書いた画像や著作権が切れた画像を学習させることができて、適法に使うことは十分にできるツール。どう使うかはユーザー次第。個人的な意見としてはmimicというツールは違法ではないと思う」と持論を述べた。

mimicのサービス説明(mimic公式サイトから引用

 柿沼弁護士は分かりやすい例として“包丁と銃”を挙げた。包丁は料理にも凶器にもなり得て、使い手次第で利用方法が変わる。これを「凶器に使われるから」と利用を禁止にすると、料理に使うことができなくなる。一方、銃は武器にしかならないので禁止される理由が十分にある、という考えだ。

※Winny事件とは、P2Pファイル共有ソフト「Winny」を開発した技術者の金子勇さんが著作権法違反ほう助容疑で逮捕・起訴された事件。「自ら著作権侵害してなくとも、ソフトを開発しただけで逮捕されるのは不当では」「開発者の萎縮につながる」などと議論を呼び、11年に最高裁で無罪が確定した。

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