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19年ぶりの打ち上げ失敗 JAXA「イプシロン」は宇宙を前に海へ ビジネス化の“要”落下の影響は

» 2022年10月12日 16時00分 公開
[谷井将人ITmedia]

 JAXAは10月12日午前9時57分11秒、発射したばかりの「イプシロンロケット6号機」に「指令破壊信号」を送信した。ロケットが衛星軌道に乗れないことが分かったためだ。指令通りロケットのタンクは割け、宇宙に到達できず海に落ちた。

 JAXAが打ち上げを失敗したのは2003年以来19年ぶり。打ち上げ責任者を務める布野泰広理事は12日の記者会見で「期待に応えられず、深くお詫びします」と謝罪した。

photo JAXAの布野泰広理事

 イプシロンロケット6号機は午前9時50分に鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所から発射。初の商業衛星2基を含む研究用衛星8基を載せていたが、ロケットともに落下した。宇宙研究などの損失につながる可能性もある。失敗の原因は調査中。

photo 6号機に搭載された人工衛星

 発射後、1段エンジンは正常に燃焼し分離できた。2段エンジンも問題なく燃焼した。しかし、3段エンジンから分離する前にロケットの姿勢にずれが発生。衛星軌道に載せられないことが分かり、指令破壊信号の送信に至った。

 指令破壊信号を受けたイプシロンロケット6号機では、機体表面の装置が作動。2段エンジンのタンクを割くようにして破壊した。切外し済みの1段エンジンと同様、2段エンジン以降は事前に予定していた落下区域(フィリピン東の海上)に落下した。落下位置のずれなどは発生していない。

 JAXAと文部科学省はそれぞれ対策本部を設置。今回の打ち上げ失敗について原因究明を行う。

宇宙ビジネス準備段階の要だった6号機

 イプシロンロケット6号機は宇宙ビジネスの発展という役割も担うロケットだった。今回の打ち上げも民間企業や研究機関が開発した機器や部品を宇宙に運び、実証実験の機会を提供する「革新的衛星技術実証プログラム」に関わっていた。

 JAXAは打ち上げ輸送サービス事業の民間移管も計画している。6号機はイプシロンロケットシリーズの開発結果をまとめた最終号機という位置付けだった。宇宙開発のIHIエアロスペース(東京都江東区)と共同で、次世代機「イプシロンSロケット」を使った事業化に向けて開発を進めている最中だ。

photo

 「6号機で民間移管に向けた歩を進めるという取り組みをしている中で、こういうことが起きてしまったのは非常に残念。打ち上げサービス化への影響については原因究明をやったうえでのこと。現時点での言及は控えたい」(布野理事)

 開発中のイプシロンSロケットについては、開発できる部分を進めつつ、全体的には「今後の取り組みについては原因究明してから相談していく」(布野理事)とした。

 「民間移管プロセスの途中ですし、いろんな影響が出てくる可能性は否定できない。まずは原因を正確に捉えて対策を打つことがJAXAのロケットに対する信頼回復で最も大切」(JAXA山川宏理事長)

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