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経営層はクラウド移行をどう決断するか、意思決定の一部始終 GCP移行したデジタルマーケ企業の場合

» 2022年10月14日 11時20分 公開
[吉川大貴ITmedia]

 データ基盤やサービス提供基盤をクラウド化する企業が増えている。理由は「データ活用を効率化したい」「オンプレミス基盤の更改が迫っていた」などさまざまだ。進め方も多様で、現場主導で進めるケースもあれば、事業部門とIT部門が協力して推進するケースも見られる。中には、経営層が主導してクラウド化を進めるケースもある。

photo 宇都宮紀陽CTO

 デジタルマーケティングなどを手掛けるSupership(東京都港区)もその1社だ。同社は現在、自社の事業で活用するデータ基盤をオンプレからGoogle Cloudに移行している。作業は11月に完了する見込みだ。移行を決めたのはCTOの宇都宮紀陽さん。トップダウンで進めるべく、プロジェクトは宇都宮CTOが主導したという。

 経営層はクラウド移行を検討するに当たり、どんな情報を基に可否を判断するのか。グーグル・クラウド・ジャパンのオンラインイベント「Google Cloud Next'22」(10月12〜14日)で宇都宮CTOが講演した内容から探る。

近づく減価償却の終了、ビジネス停滞踏まえた移行が必要に

 Supershipは自社が保有するファーストパーティーデータを活用し、広告運用やメールマガジンの送信といった顧客のマーケティングを支援する事業などを手掛けている。移行に至ったデータ基盤も同様の事業で活用しているものだ。これまでは外部データセンター内にサーバを置いて運用していたが、減価償却の終了が迫っており、機器を買い替える段階にあったという。

 一方で、移行に当たってはコロナ禍の影響を踏まえる必要もあった。宇都宮CTOによれば、Supershipではコロナ禍によって事業を取り巻く状況が変化し、デジタルマーケティング事業の成長が停滞してしまっていたという。

 売り上げに貢献しない業務も増加し「規模の経済が働かなくなった」と宇都宮CTO。今まではデータ基盤を拡大方向にスケールすることで売り上げにつながる生産を増やし、コストを相対的に下げ利益を高める戦略を取ることができた。

 しかしコロナ禍で通用しなくなり、クラウドを視野に入れた基盤の見直しが必要になったという。ただ、当初からGoogle Cloudありきで進めていたわけではない。もともとはクラウドかオンプレかの段階から検討していた。クラウドを採用したのは、社内へのヒアリングの結果を踏まえたからだ。

 ヒアリングは財務・経理部門や、社内のインフラを支えるチームのうち、オンプレ基盤を管理する人に実施。求めるスペックや財務管理上の懸念、人材・資材の過不足などを聞き、判断の材料とした。

クラウド化決めた5つの判断材料 セキュリティ・スペックだけじゃない

 最終的にクラウドを選んだ理由は大きく分けて5つ。まずはスケジュールだ。Supershipが移行の検討に取り掛かったのは2020年4月。減価償却の終了が近づくサーバは500台あり、多くを新幹線での移動が必要な遠隔地のデータセンターに配置していた。

photo 移行のスケジュール

 データの総量も数ペタバイト規模(1ペタバイトは1テラバイトの1024倍)。同数の物理サーバや作業場所を確保し、リプレース作業を行うには時間が足りないと判断したという。

 2つ目は固定資産管理上の負担を減らすことだ。資産の検収・棚卸に当たって、遠隔地に出向いて作業するのはエンジニア・管理部門の両方にとって負担が大きかった。

 3つ目はリソース調達の難しさだ。半導体不足などの影響もあり、物理サーバを購入しても納品されるのは早くても3カ月後。そもそも納期通りに受け取れるかも不確実だった。

 4つ目はシステムの棚卸だ。クラウド化に際し、不要なアカウントやデータの整理が進むことを期待したという。

 最後は人材の問題だ。Supershipでは5年以上前からデータ基盤の構築・管理などに必要な人材を募集していたが、追加の人員を確保できておらず、知識のある人が不足していた。一方、同社は過去にGoogle Cloudを別のデータ基盤に採用したことがあり、経験・実績のある社員もいたことから、クラウドを活用することに決めたという。

 数あるクラウドサービスの中からGoogle Cloudを選んだのは、エンジニアの評価を重視したからだと宇都宮CTO。利用経験のある社員がいたこともあり、「現場の評価が一番大事」と考えたいう。他にも、既に導入していた「Google Workspace」との親和性や、移行に当たってGoogle Cloud、現行基盤の管理に携わるパートナー企業と3社で協力する体制を築けたことが決め手になったとしている。

「CCoE」も並行して開設 横展開も

 宇都宮CTOによれば、移行作業は進行中で、講演時点では予定通り11月中に完了予定という。移行作業と並行し、クラウド活用の仕組みを整え、広めていく部門横断型の専門チーム「Cloud Center of Excellence」(CCoE)の設立も発足。今回の知見を踏まえ、社内でGoogle Cloudの活用を活発化させる計画を進める方針だ。

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