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スマホ高騰 これから日本は「修理して長く使う」が主流になる?小寺信良のIT大作戦(2/3 ページ)

» 2022年12月10日 11時30分 公開
[小寺信良ITmedia]

米国で始まった「修理する権利」

 「購入した機器を自分で修理する権利」というのをご存じだろうか。始まりは2012年、米国マサチューセッツ州で、「自動車所有者が修理する権利法」が制定されたことである。車検制度がない米国では、自動車整備は所有者の選択と責任であることが、権利の制定に繋がっていった。

 電化製品の場合、その修理はメーカーに委ねられる。メーカーが修理不能といえば買い換えるしかないわけだが、そこに消費者の多彩な選択肢の1つとして、「自分で修理する」が権利として認められるべきという考え方は、SDGs的視点でも歓迎された。

 2021年7月に米連邦取引委員会(FTC)が「修理する権利」に関する法律の施行を可決、続く2022年には電子機器を対象とした「修理する権利」を定める法案がニューヨーク州議会で可決されると、Appleなどスマートフォンメーカーは購入者が自分で修理する「セルフリペアサービス」を提供し始めた

Appleも2022年4月から米国で「Self Service Repair」をスタート

 iPhone 14も設計が変わり、ガラスパネルやバッテリーの交換がしやすいようになった。もっともこれは、生産拠点が変更になったため、製造の難易度を下げる目的という説もある。

 一方日本でも、スマホの自己修理は、権利として認められていくのだろうか。これには、かなりのハードルがある。

 まず第1に、現行法では技適マークのあるスマートフォンなどを分解すると、改造とみなされて電波法違反となる可能性があることだ。たとえ分解前とまったく同じように組み立て直しても、一旦中を開けた以上、改造していないという証拠がない。また純正部品からサードパーティ製部品への交換は、改造とみなされる可能性は高い。電波法違反は非常に罪が重く、1年以下の懲役、または100万円以下の罰金が科せられる。

 法的に修理が可能なのは、メーカーか、メーカーから委託を受けた正規修理事業者に限られる。街の修理屋で、格安バッテリー交換などと謳う事業者もあるが、メーカーからの委託を受けていない事業者に依頼した場合は、その利用者が修理品の電源を入れて電波を発した時点で違法となり、利用者が刑罰の対象となり得る。例え技術的に問題がなくても、法解釈としてはそうなるという事である。

 ましてや自分で分解して修理するなどは、当然アウトという事になる。自動車の車検制度みたいに、資格を持った事業者が検査して技適マークを張り直すみたいな仕組みも考えられなくもないが、検査費用を考えると自分で修理した方が高く付きそうである。

 しかしその一方で、古いiPhone向けに自分で修理するためのパーツがAmazonなどで普通に手に入るという現実もある。まずは技術的に可能かどうかの前に、電波法の改正を行なわなければ無理というのが、日本の現状だ。

 もう1つは、修理の難易度である。スマートフォンのパーツは、それぞれがかなり小さく、指でつまむと中まで指が入らないので、ほとんどはピンセット作業である。電源は切ってあっても、バッテリー自体は生きているため、触る場所に気をつけないとショートする恐れがある。また先端の尖ったピンセットでバッテリーの表面を傷付けるといった事になれば、リチウムイオン電池の安全性は大きく下がる。

 実際問題として、メカ的、電気的知識に加えて手先の器用さが問われるため、普通の人が誰でもできるものではない。もちろん、修理に失敗しても誰の責任でもなく、自分のせいである。修理する権利は、これを受け入れられるかとのセットになる。

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