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「フロッピーで提出」「目視が必要」 進む“アナログ規制”見直し、地方は追随できるか?小寺信良のIT大作戦(1/2 ページ)

» 2022年12月22日 14時30分 公開
[小寺信良ITmedia]

 2021年に「デジタル社会形成基本法」をはじめとする、いわゆるデジタル改革関連六法が成立した。その中には、「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」も含まれており、地方行政も国とともにDX化を推進することとなったのはご承知の通りだ。

デジタル改革関連法の全体像(厚生労働省公開資料)

 そしてデジタル庁は2022年11月18日、人による目視や常駐を義務付ける、いわゆる「アナログ規制」の撤廃に関して、地方自治体にとって条例改正の参考書ともいうべき「地方公共団体におけるアナログ規制の点検・見直しマニュアル【第1.0版】」を公開した。同時にSlackを使って、政府と自治体職員が情報共有できるコミュニティーも開設した。

 国と地方ではやっていることも法律の守備範囲も全然違う。なぜこのようなマニュアルを作成する必要があったのか、その背景から整理してみる。

国と地方、枠組の違い

 そもそもなぜ行政のDX化が必要なのか。マニュアルの第1章には、「我が国の行政や社会、産業の基本的な構造を形作る法制度やルールは、多くがデジタル技術の登場以前に確立され、書面・対面といったアナログ的な手法を前提とするものです」とある。

 現時点ではまさにこれで回っているわけだが、この先には「2040年問題」が待ち構えている。簡単に言えば、2040年には65歳以上の高齢者の人口がピークになり、生産年齢人口が激減する。つまり行政も、あとたった18年後には今の半分程度の公務員数で、人口の35%にも上る高齢者の面倒を見る事になる。いつまでも紙とハンコと人の立ち会いなんかをやっていたら、破綻まったなしなのである。

 行政改革には時間がかかるものだが、乱暴な言い方をすれば、このコロナ禍でバタバタのうちに強引にデジタル化しておかないと、もう次のチャンスは待っていられないというのが、行政DXの本質である。

 国は国で、令和4年に河野太郎氏がデジタル大臣となり、ハンコやFAX全廃など、バリバリ改革が始まったところだ。だが地方は、憲法に定められた地方自治の原則によって、国からはいったん切り離された独自行政となっている。つまり地方行政は地方の長がコントロールするものであり、国の方針やデジタル大臣の指示によって直接動くものではない。

 よって今回のマニュアルでは、前半は国がどうやってDX化を進めているかの話、後半は地方自治体ではどうやって進めれば良いのかのサンプル事例となっている。つまり、国が直接こうしなさいという指示は出せない(し地方は聞く義務もないし聞かせるのであれば助成金くれという話になる)ので、参考書という格好になっているわけである。

 指揮系統としては国と地方は別れているが、行政事務としてはつながっている。地方行政には、地方独自の業務である「自治事務」のほか、国など上組織の出先機関として業務を請け負う「法定受託事務」がある。これにより、都道府県は国の事務を、市町村は県の事務を代わりに請け負っている。県の条例に関わることが、わざわざ県庁に赴かず市町村役場で手続きできるのは、こういった仕組みがあるからだ。

 法令の仕組みもおさらいしておこう。国会は日本における唯一の立法機関なので、法律が制定できる。一方法律だけでは細かいところまで回らないので、それを補完する「行政立法」も認められている。主なものとして、政府は政令、省庁は省令、内閣府は内閣府令を制定できる。ここまでが「国」の話である。

 一方地方自治体が制定できる主なものに、条例と規則がある。条例は議会決議によって制定され、規則は自治体の長が制定できる。これは47都道府県はもちろん、市町村レベルでも制定できるので、全国約1700の全自治体にそれぞれ条例と規則がある。これは法令をそのままなぞっただけのものもあれば、法令に継ぎ足しする格好になっているものなど、いくつかの形がある。

 これら地方自治体が持つ条例・規則の総数は、定かではない。同志社大学が収集する例規(条例と規則)の数は138万件にも及ぶ(条例Webアーカイブデータベース)が、これは廃止された過去の条文も含まれるほか、全ての現行条文が網羅できているわけではないと思われる。だが、DX化の対象としてチェックすべき例規数としては、日本全国に100万単位で存在する可能性がある。

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