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“1人1台”で放置される学校の「コンピュータ教室」 それでも文科省が残したい理由小寺信良のIT大作戦(2/3 ページ)

» 2022年12月27日 13時30分 公開
[小寺信良ITmedia]

放置されるコンピュータ教室

 コンピュータ教室を廃止する動きがあると先ほど述べたが、なぜ活用されないのか。大きな理由の1つに「予算」がある。

 現在小中学校の公立校で実現している1人1台端末は、国からの公立学校情報機器整備費補助金に加えて自治体の公費負担であり、子供たちには貸与という形で支給されている。ではコンピュータ教室のPC刷新は、誰がお金を出すのか。CADや編集ツールが動かせるPCは、1人1台端末よりハイスペックが要求されることから、高価である。文科省は旗振りしているが、誰がお金を出すのかの話は一向に聞こえてこない。

 やるなら各自治体が負担するしかない。しかし現在支給している1人1台端末の保守・修理費用が予想外に膨れ上がっている。修理の保護者負担でもめる自治体や、保護者に保険加入を求めるところも出てきており、自治体からも保護者からも「思ってたのと違う」という声が出始めている。

 コンピュータの耐用年数は一般的に5年程度と考えられるが、数年後に訪れる次回の一斉更新では、国の補助があるのかないのか、具体的な方針はまだ出ていない。これがなければ、全額自治体負担となる。多くの自治体では、次回の1人1台端末一斉更新の補助金が見えてこない限り、「コンピュータ教室どころではない」というのが本音ではないだろうか。

 筆者の息子が通う中学校にも、コンピュータ教室がある。GIGAスクール構想にて1人1台端末が配布されたのは、2年生の時だった。だがこの3年間、一度もコンピュータ教室を使ったことがないという。端末も古く、特に使い道もないままで放置状態になっている学校も多いはずである。

 活用されないもう1つの課題は、「管理する人がいない」という問題だろう。ネットワーク化されたコンピュータを管理・運営するのは、プログラミングの授業がある技術の先生という事になるだろうが、中学の技術のカバー範囲は今やかなり広い。以前からの守備範囲である材料と加工技術のほか、主要教科では教えられない生活・社会関連の話、すなわち農業やエネルギー関連といったテクノロジーも、技術科で教えることになっている。少ない単元数の中、コンピュータばかりいじらせているわけにはいかないのが現実だ。

 またコンピュータやネットワークの管理運営の知識は、教科として教える技術とは別のものであり、これは経験値がモノを言う。教員としては優秀でも、システム管理者としてそれができる先生とできない先生が出てきてもおかしくない。さらに担任や部活の顧問まで持っている技術の先生もいるだろう。それに加えて昨今では、他に詳しい人がいないということから、各教室のネットワークのトラブルシューティングや、端末の簡単な修理や初期化などの役割まで回ってきているはずだ。これではいつコンピュータ教室の面倒を見るのか、という話になる。

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