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「口の中の細菌3分の1」は一緒に暮らす人たちと共有していた 約1万の糞と唾液を採取し感染具合を調査Innovative Tech

» 2023年01月23日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 イタリアのトレント大学などに所属する研究者らが発表した論文「The person-to-person transmission landscape of the gut and oral microbiomes」は、約1万の糞と唾液を採取し、世帯内外の個人間でどの程度細菌が広がるかを調査した研究報告である。

 多くの細菌は芽胞を形成して空気中で生存することができるため、親密な関係でなくても家庭内で口腔内の細菌3分の1が同居人に伝染する結果を示した。

 腸内や口腔内をはじめ、体内や体外に生息する何百種類もの微生物マイクロバイオーム(細菌やウイルス、真菌など)が健康に与える影響については、人類にとって重要な関心事である。しかし、対人関係が個人のマイクロバイオームの遺伝的構成をどの程度形成し、世帯内外の集団集団間をどのように広がるか分かっておらず、未解決のままである。

 この研究では、世帯内外の集団におけるマイクロバイオームの個人間レベルの広がりを調べるため、糞便と唾液から採取した細菌を遺伝子レベルで分析した。調査対象は、同居、非同居、親族、友人、母子、双子などの関係性を含めた、9715の糞便または唾液(糞便7646、唾液2069)を採取して用いた。

個人間のマイクロバイオームの広がりを調査するための対象情報

 分析した結果、個人間での広範な菌株共有(1000万インスタンス以上)が、母子感染や世帯内感染、集団内感染という異なるパターンで検出できた。予想通り、生後1年間は母親と乳児の腸内細菌群の間で株の共有率が最も高かった。

 興味深いのは、腸内細菌よりも口内細菌の菌株を世帯内で共有する傾向があったことである。腸内細菌の12%の系統が世帯員によって共有されていたのに対し、口腔内細菌の系統は32%であった。一方で口腔内細菌のうち、同居していない人の間で同じ系統の細菌がいたのは、わずか3%であった。どれほど世帯内での広がりが多いかが分かる。

世帯内と世帯間での腸内細菌の分析データ
口腔内細菌の分析データ

 口腔内細菌は、多くの細菌が空気中で長い時間生存できる芽胞を形成するため、容易に共有されるという。さらに、一緒に暮らしている人々は同じような食べ物を食べている可能性があり、それが同じ菌株の繁殖を促すような同等の口腔内環境をもたらしている可能性を示唆した。この結果は、キスやセックスをしない相手にも細菌を感染させることがいかによくあることかを示している。

Source and Image Credits: Valles-Colomer, M., Blanco-Miguez, A., Manghi, P. et al. The person-to-person transmission landscape of the gut and oral microbiomes. Nature(2023). https://doi.org/10.1038/s41586-022-05620-1



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