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請求書に独自レイアウトは必要なのか 無意味なだけでなく有害?

» 2023年01月26日 07時00分 公開
[斎藤健二ITmedia]

 freeeは、インボイス制度に対応した請求書を作成できるサービス「freee請求書」の無償提供を、2022年12月に始めた。特徴の一つは、50種類以上に及ぶ請求書のテンプレートを用意したことだ。

 freeeの担当者によると「顧客からの最も多い要望が、請求書の複数レイアウトパターン」なのだそうだ。さらにロゴと社判についてのリクエストも多く、freee請求書では1ピクセル単位でロゴや社判の位置を調整できる機能も盛り込んでいる。

顧客の要望に応えて、どこに何の項目を表示するかを変えて複数のレイアウトを用意したfreee請求書

 取引先に送る書類だから、少しでもイケているデザインにしたいという気持ちは分かる。特にデザイン関係の会社からは、オリジナルデザインの請求書を発行できるようにしてほしいという要望も多いという。

 しかし請求書に、独自のレイアウトは必要なのだろうか? いまや請求書もデジタルの時代だ。Sansanなどは顧客に代わって請求書を受け取ってデータ化するサービス「Bill One」を提供しており、もはや受け取った請求書を顧客が見る必要さえない。

 請求書の社判の印影についても、「実際に捺印したものでないと受け取れない」と主張した経理担当者も以前は存在した。そのためExcelで作成した請求書をいったんプリントアウトし、そこに社判を付いたあとでスキャン、PDF化してメールで送るという摩訶不思議な業務も存在した。いまや印影がデータでも気にする人はいないと思うが、ならばなぜ印影が必要なのかという疑問もわく。

請求書のこだわりレイアウトは、無意味なだけでなく有害では?

 独自のレイアウトにこだわることは、無意味なだけでなく有害でさえある。

 受け取った請求書は、OCRにかけられてデータ化するのが世の趨勢(すうせい)だからだ。OCRでは、まずどこに何の数字が記載されているのかを分析し、その後数字を認識していく。レイアウトにさまざまなパターンがあることで、OCRは無駄な認識をしなくてはならない。当然、精度も落ちる。

OCRの精度を上げるには、数字や文字の認識だけでなく、どこに何が書いてあるのかの認識が重要だ。さまざまなレイアウトがあることで精度は落ちる

 いっそのこそ、デジタル庁あたりが音頭をとって、請求書のレイアウトを共通化したほうが、デジタル化は着実に進展するのではないか。さらに請求書の項目を標準化しXML化して、それをQRコードとして印刷するようにすれば、OCRの手間もいらなくなる。

 どうせPDFをメールで送るのだから、メールにそのXMLを添付すれば簡易にデジタル化が進む。もともとは何がどの数字なのかの情報を持っているのに、PDFに変換した時点でその情報が失われる。そこで受け取ったPDFからOCRで再びデジタル情報に戻すという、摩訶不思議な現状から一歩進むのではないか。

 デジタル庁が推し進める電子インボイス規格の「Peppol(JP PINT)」に比べれば、本人認証もされない中途半端なものではあるが、少なくとも導入は容易だ。まずはデジタルデータをデジタルのまま送るところから始めてみるのも良いのではないかと思うが、どうだろう。

 そんなことを思いながら、紙の請求書をやり取りするという商習慣は、デジタル化が進む中でもそうそう変わらないものだと実感した次第だ。

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