とはいえ、プロジェクトはまだ道半ばだ。これから解決が必要な課題も複数ある。大澤さんによれば、目前の課題や、想定される壁は大きく分けて5つあるという。
1つ目は教育現場との連携だ。今回のプロジェクトでは、学校・教育委員会と内田洋行がチームを組み、経過や情報を共有しながら少しずつシステムの完成を目指す「アジャイル開発」という手法を採用している。
従来の開発手法と異なり、事前の検討ではなく、現場の声を聞きながら進めていくやり方だ。しかし、現場の先生たちはアジャイル開発になじみがなく、業務に関連付いた意見を聞くのに苦労しているという。
2つ目は、PCや校務システムの活用状況だ。GIGAスクールで進捗はしたものの、まだPCを使った授業などは学校や先生ごとで程度に差があるという。「ICTを活用する授業ができていないと、ログはたまらない。ICTを使った教育の推進と同時に進めていきたい」(大澤さん)
3つ目は、データ活用に当たって、具体的に児童・生徒の情報をどこまで収集するかという問題だ。仮に法的に問題なかったとしても、家庭にどこまで踏み込むかがプライバシーの観点から課題になる。
とはいえ、宿題へのつまづきに関するデータを確認できれば、児童・生徒の学習状況を把握しやすくなり、授業への理解も深められると大澤さん。このさじ加減も今後協議・検討していくという。
4つ目は、データ活用に関する現場の理解度だ。「朝ごはんを食べていれば成績が上がるという相関を見て『朝ごはんを食べさせておけばいい』と思われてしまうと、本来の狙いとは違った結果になる。教員にも、データの見方を文化として根付けていかないとミスリードになってしまう」(大澤さん)
教員だけでなく、保護者の理解をどう得るかも、乗り越えるべき壁だ。多様な子供がいるように、保護者にもさまざまな人たちがいる。突然「今日からこのようにデータを見せていきます」といっても、プライバシーの問題もあって受け入れてもらえない可能性もある。
どのように理解を得るかは今後検討していく段階で「慎重に進めていきたいが、いずれ保護者向けのダッシュボードが必要なのかなと考えている」(大澤さん)。同様に、児童・生徒向けの情報提供についても、データの見方などを浸透させた上で検討していく方針という。
最後は、サービスのアップデートや技術進化への追い付き方だ。ダッシュボードやシステムを、完成後もどのようにアップデートしていくかが「現在苦労しているわけではないが、今後課題として出てくる」(大澤さん)としている。
一連の課題への対応について、これから検討を重ね、一つ一つ解決を目指すというさいたま市。教育の現状については「いわゆる転換点で、かじ取りが必要な段階にある」(大澤さん)と分析。最後に、プロジェクトの今後についてこう意気込みを示した。
「探求できる子供たちを育てなければいけないという使命感がある。それには事業を転換していかないといけない。ただ、学校の教育現場・教育委員会だけでは到底無理。子供たちを本当に幸せにするには、民間などノウハウがあるところと組んでいかないといけない。みんながwin-winの関係になって、日本経済を豊かにするには、互いのいいところを出し合っていくDXの考え方が必要と思うので、実践していきたい」(大澤さん)
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