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「バッグを持ち歩かない人のバッグ」に込めたアイデアとは デザイナー・秋田道夫さんに聞く分かりにくいけれど面白いモノたち(2/3 ページ)

» 2023年01月31日 18時35分 公開
[納富廉邦ITmedia]

 聞けば、なるほどというか、そうなるだろうなとは思うのだけど、こういう風に作られた革のバッグは、通常、革袋のような、クタッとしたシルエットになる。それが、紙袋的な、シャンとしたシルエットになっているから驚いてしまう。

 「素材に、強度がありキメが細かく柔らかみもある上質なカナディアンキップレザーを採用したことも『かたやわらかい』印象を与える大きな要因だと思います」という言葉通り、革の選択も重要なポイント。

 さらに、強度を最小限に抑えた思い切った設計なのが、紳士用カバンの常識を超えている。あまり重いものは入れられないし、ラフに使うのには向かないのだ。しかし、手提げカバンだから、最初から大して重いものは入れられないし、上部が開いたトートバッグ構造だから、放り投げたり、網棚に乗せたりといった使い方も想定されていない。つまり、機能とデザインが見事に合致しているのだが、ここまで思い切ったことが出来るのは、このバッグがメーカーのオリジナルではなく、プロダクトデザイナー秋田道夫氏とのコラボレーションだからこそだろう。

軽くて、それなりの高さがあり、一枚革で出来ていて、スマートな外観だが、マチが7cmあって、中身が空でも自立する
底には革が1枚貼られている。表面の革の下端を足代わりにするのではなく、その下に革を板のように貼る構造のおかげで、自立すると同時に、表の革が湾曲することなくシャンと立つのだ

 一見固そうで、実は柔らかくて、しかし、このバッグ、自立するのだ。これもまた「紙袋」的な特長になるだろう。実際、実物を見て、自分で立ててみるまで、自立することが信じられなかった。だって、芯材が入れられていないように見えるのだ。

 この不思議については「新品の状態だと、革本来の肉厚さと、7cmのマチで十分自立します。ただ、ここで使っている革は、使用していく度にクッタリとしてきますから、ハンドルの下にバンド(写真06参照)を仕込ませることにより、型崩れがしにくい構造となっています」と、トライオンの設計スタッフからコメントを頂いた。

芯材を使わずに型くずれを防ぐために、この図のように、ハンドルの下にバンドを仕込んでいる

 '90年代あたりに、ファッションブランドや化粧品メーカーのショッパーをバッグ代わりにするのが流行ったことがあった。形も、ちょっと横長いものとか、正方形のものなど様々で、全面に写真がプリントされていたり、ロゴがエンボスで箔押しされていたりと、凝った仕様のものが多かったこともあって、ファッショナブルな方々が、ショッパーに手回り品だけを入れて持ち歩いていた。今でも、友人の画家などは、お気に入りのドルチェ&ガッパーナのショッパーをバッグ代わりにしていたりする。

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