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ChatGPTは弁護士の代わりになるか? 「カタツムリ混入ビール事件」の判例で検証 香港チームが発表Innovative Tech(2/3 ページ)

» 2023年02月27日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

ChatGPTによる法的調査の評価

 続いて、ChatGPTによる法的調査の評価を行う。入力するテキストは「原告を強化するためにどのような証拠を集めるべきか」「被告が提起する可能性のある抗弁」「裁判を避けたい場合の裁判外紛争解決手続(ADR)はあるか」「どの段階でADRの方法を適用すべきか」などである。全てのテキストプロンプトは以下の画像の通りである。

GhatGPTに入力したテキストプロンプトの一覧

 こちらの回答も全て論文内に書かれているため、ここでは特筆したい一部の質疑応答を紹介する。「原告をサポートするためにどのような証拠を集めるべきか」の問いに対して、以下のような回答が得られた。

  • 医学的証拠(原告のけがや治療を証明できる医療記録、請求書、医療専門家の証言)
  • 目撃者の証言(原告がジンジャービールを摂取するのを見た人、またはジンジャービールの中に腐敗したカタツムリを見た人がいれば、その人の証言)
  • 物的証拠(汚染されたジンジャービール、腐敗したカタツムリ、そのパッケージやラベル)
  • 専門家証人による証言(食品安全の専門家による証言)
  • 文書と記録(検査報告書や試験結果、製品の安全性と品質に関連するその他の文書)
  • 財務的証拠(原告の医療費、逸失利益の記録など)
  • 業界基準および規制の順守(食品安全に関する法律や規制の順守の証拠など)
  • 購入の証明(領収書などの原告が被告からジンジャービールを購入したことを証明する証拠)

 このように、ChatGPTは原告側を有利に進めるための証拠の包括的なリストと例を提供できると分かった。次に、「被告が提起する可能性のある抗弁」を予測できるかを評価した。回答結果は次の通りである。

  • ジンジャービールが原告の傷害と損害の原因であることを示す証拠がないと主張
  • 業界の基準や規制を順守していると主張
  • 原告自身の行動や不作為が負傷や損害につながったのであり、原告はこの事故について何らかの責任を負うべきであると主張
  • 原告は法律で定められた期間内に請求を行うことができなかったため、原告の請求は時効により禁止されていると主張
  • 原告の請求は消滅時効により禁止されると主張
  • 原告は、本件により現実に損害を被ったとはいえないと主張
  • 原告は、ジンジャービールに異物が混入する危険性を知っていたか、知るべきであったのに、とにかく飲んでしまったと主張

 ChatGPTが被告から提起される可能性のある抗弁を予測する能力を評価した結果、このような状況において、例を複数挙げて合理的な回答が提供できると分かった。

ChatGPTに殺人事件の判決をしてもらった

 より複雑な判例でもテストし、ChatGPTの能力を評価する。米国で実際に起きた「Rogers v. Tennessee事件(2001)」で実施する。被害者は被告に刺された後、約15カ月間昏睡状態が続いた。被告は殺人罪で起訴されたが、被害者は被告の行為から1年1日以内に死亡していないため、有罪が棄却されると主張したという判例である。

 この判例では、被告側と検察側の両方の弁論趣意書をChatGPTに書いてもらい、両者の弁論趣意書を考慮して判決文を書いてもらう。つまり、両者の主張を述べた後にChatGPTに判決してもらった。

 ChatGPTが出力した両者の弁論趣意書は論文内で見てもらうとして、ここでは判決文の最後のみを引用する。

In light of the above, it is my finding that the prosecution has presented a strong case for the defendant’s liability for the victim’s death. The defendant’s actions in stabbing the victim, which caused the victim to remain in a comatose state for 15 months before dying, constitutes as a continuing act and the victim’s death is a virtual certainty as a result of the defendant’s actions. Furthermore, the defendant intended to cause serious harm to the victim, and that harm resulted in the victim’s death. The defendant’s conviction for murder is therefore not precluded under common law.

 判決文の概要を端的にまとめると、まず冒頭で両者の主張を述べ、次に争点を明確にして検察側の主張は正しく立証されていると評価した。その上で、被害者を15カ月間昏睡状態にしたことを被告の継続的行為としている。また、被害者の死は被告の行動(意図的な危害)の結果として事実上確実であるとした。最後に「被告人の殺人罪の有罪判決は排除されることはない」と結論付けた。

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