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Appleが「オフィスで働いて」と社員に望む理由 日常が戻ってきた米国の「ハイブリッドワーク」事情シリコンバレーから見た風景(2/3 ページ)

» 2023年02月27日 16時00分 公開
[五島正浩ITmedia]

コロナ禍以降のリモートワーク

 コロナ禍が始まると、オンサイトで働かなければならない人を除いて全員が在宅勤務となりました。中には物価や住宅費の高いシリコンバレーから離れた場所に引越す人や、旅先からリモートワークをする人も。

 会社側では緊急時の対応や税金処理をなどさまざまな問題が出てくるようです。私の勤務先では、会社に登録した住所と異なる場所からリモートワークを続けている人に対して、リモートに勤務体系の変更手続きをするように案内が出ていました。また変更する場合には新居住地の給与水準に合わせるための給与調整が入るとのこと。シリコンバレーは給与水準が高いので、他の場所に移ると給料が下がります。これはもともとそこでリモートで働いていた人との格差を無くすための措置だそうです。同様な対応をしている会社も多いのではないでしょうか。

 シリコンバレーでは就労ビザで働いている人が多いのですが、ビザの種類によっては勤務地の変更があると手続きが必要になるケースがあるそうです。他にも子供の学校を変えたくないなどさまざまな理由もあって、私の周りでは遠方に移動した人はわずかです。シリコンバレーの通勤圏内で、在宅勤務に適した広めの住居に引越しした人が多い印象です。

 ユニークなポリシーを打ち出して話題になったのがAirbnbです。在宅勤務とオフィス勤務のどちらでも良いうえ、同じ国内ならば別の場所に引っ越しても給料の調整が入らない単一の給与体系を導入しました。また年間最大90日間は世界中のどこで暮らして働いても良いとのこと。他社よりも一歩踏み込んだ柔軟性の高いリモートワークを実現していて、さすが民泊のネットワークを提供している会社だと感心します。

Appleは週3日出社に

 実際にRTOの議論が始まるとさまざまな意見が出てきます。自宅に快適な仕事環境を整備した人は、オフィスで仕事をするよりも効率が良いと考えます。逆に家では仕事に集中できないという人や、在宅勤務はもううんざりだから会社で人に会いたいと考える人もいます。家族と接する時間が減るとか、自動車通勤の渋滞がおっくうだとか悩みは人それぞれです。オフィスで働く意義を考えるようになりました。

 Apple、Googleなどビックテックは従業員数も多く、シリコンバレーに大きなオフィスキャンパスを持っています。またコロナ以前から多くの投資をして高いプロダクティビティとクリエイティビティを実現できる最高のワークスペースを整備してきました。オフィス空間の設計だけでなく、カフェテリアの充実ぶりは有名ですし、自社の通勤バスも多く運行されていて至れり尽くせりです。会社側が従業員に早くオフィスに戻ってきて欲しいと思うのは当然でしょう。

 Appleはリモートワークを好む人がいることを理解して、週3日のみオフィス勤務を求めるハイブリッドワークを導入しました。火・木は全員出社日で残り1日は所属チームで決めることができるそうです。とあるAppleの社員に聞くと、火・水・木の連続3日間で出社することになったため、月曜は自宅で出社日に備えて準備、出社3日間はチームメンバとオフィスで集中的に仕事をこなし、金曜は自宅またはオフィスで残った仕事を片付けるようにしているとのこと。ハイブリッドワークが導入された結果、オフィスにいる時間をより効率的に使えるよう工夫するようになったと言っていました。

 RTOというと会社から強制的に出社させられるイメージでしたが、チームや個人が自主的に仕事の仕方を考える仕組みを導入することによって、プロダクティビティの向上につながるのかもしれません。

夕方のApple本社。社員専用の通勤バスが次々と出発していく

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