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Appleが「オフィスで働いて」と社員に望む理由 日常が戻ってきた米国の「ハイブリッドワーク」事情シリコンバレーから見た風景(3/3 ページ)

» 2023年02月27日 16時00分 公開
[五島正浩ITmedia]
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新しい働き方「Distributed Workforce」

 私の勤務先でもハイブリッドワークが導入されました。一部の職種は週数日のオフィス勤務が必要ですが、エンジニアを含めそれ以外の社員はオフィス勤務か在宅勤務か自分で決められるようになっています。全従業員出社日の設定はないので、より自由度が高いハイブリッドワークのモデルといえるでしょう。同時に国内・海外のオフィスでのオンサイト勤務や遠隔地のリモート勤務など、世界中に分散した従業員が効率的かつ柔軟に働ける環境を構築するという新しい働き方が示されました。このような考え方を一般に「Distributed Workforce」と呼ぶそうです。

 私の所属するチームはもともと分散されていて、アメリカ国内だけでなく海外からリモートで働くメンバーが多く、新しい働き方は大きな変化というよりも、むしろ現状に合わせた方針だと感じました。日々のチームのコミュニケーションはZoomやSlackで行いますが、やはり対面でのコミュニケーションが重要なので、3カ月に一度シリコンバレーの本社オフィスに全メンバーが集まり1週間のワークショップを行っています。ディナーやボウリング等のチームビルディングのイベントもあり、お互いのことをより知る機会になります。

 私を含めて多くの社員が在宅勤務を継続しているので、シリコンバレーの本社キャンパスは閑散とした感じです。たまには会社に顔を出してみたらどうか、ということなのでしょう。キャンパス担当が、チュロスやアイスクリームサンドイッチなどのスイーツを振る舞う日や、フリーランチの日を企画するようになりました。もちろん無料ですし、会社のロゴ入りバックパックやタンブラーももらえます。ついつい食べ物とモノにつられてオフィスに出向いてみると、久しぶりに会った同僚と話が弾んだり、広大で美しいキャンパスを歩くと気分転換になったり。たまにオフィスに来るのも悪くないと考え方を改めました。

 私の場合、早朝から昼までは時差があるインドや東海岸のエンジニアと自宅から断続的にZoomでミーティングを行い、午後はシリコンバレーローカルのエンジニアとラボテストを行っています。ラボテストはリモートでもできるのですが、複数のシステムをインテグレーションしていると複雑なトラブルシューティングが必要になることがよくあります。こういう時はオフィスに出社することにしました。自分とは異なる専門分野のエンジニアと対面で議論しながら集中作業をすると効率が良いです。最近は週に数日午後だけ出社しています。

 分散したチームで働くとどうしても時差は避けられません。効率的に仕事を進めるには、一緒に働くチームメンバのタイムゾーンを意識し、自分の働く時間を柔軟に調整することが重要です。在宅勤務を基本とし必要な時だけオフィス出社をする今の自分のワークスタイルは、出社時間や通勤時間を気にする必要がないうえ、食事や休憩などの時間も調整しやすいのでとてもプロダクティビティが上がります。

キャンパスで振る舞われたチュロス。ジェンガのゲームで盛り上がっている人もいた

クリエイティビティが上がるオフィスとは?

 先日Appleの本社キャンパスApple Parkの敷地内に初めて入ることができました。巨大な円盤型のオフィスビルの周辺を歩いたのですが、まるで手入れの行き届いた立派な寺院や神社などを訪れた時のように、凛と引き締まっていて俗世間から切り離された雰囲気を感じました。新しいものを生み出すことに集中できる空間とはこういうことなのでしょう。

 スティーブ・ジョブズは重要な話は外を歩きながらするのを好んだそうです。先日ティム・クックがイーロン・マスクと会った時に話題になった敷地内の人工池は、人の会話を打ち消すかのようにさざなみの音がしていて、周囲には座って話せるベンチもあり、まさにそんなシーンにふさわしい場所だと感じました。会議室では対立してしまう話もここを歩きながら話をすれば、お互いの意見を理解し問題を解決できるのかもしれません。

 いろいろと想像が膨らみますが、世界のトップを行くAppleのキャンパスは別次元のものでした。他にはまねできないAppleの強さはここからくるのでしょう。Appleが全従業員にRTOを求めた理由が理解できました。

 ハイブリッドワークとは単に出社か在宅かといった自身の勤務形態のことだと思っていました。しかし実際に経験してみると、会社側は成長可能な新たな仕事環境や働き方の実現を求められ、従業員側は与えられた自由度の中でどのようにパフォーマンスを上げられるか問われていると感じます。両者のシナジーで大きく伸びる場合もあれば、逆に歯車がかみ合わず衰退することもあるでしょう。ここでの選択が近い将来大きな差になって表れてくるかもしれません。

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