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今に生きる「Winny」の技術 総務省も採択、天才プログラマー・金子勇さんが遺したもの(2/3 ページ)

» 2023年03月30日 13時30分 公開
[酒井真弓ITmedia]
事件に翻弄されながらも開発を続けていた金子さん。国外に目を向けると、同じ時期、今の私たちの生活に直結するさまざまなサービスが誕生していたことが分かる

 時は流れ、2019年。「SkeedOz」(スキードオズ)がリリースされた。

 SkeedOzは、Skeed独自のP2P技術によって、中央サーバを介さず、端末同士が自律的にビッグデータを流通・蓄積・処理できるIoTプラットフォームだ。この仕組み、何かに似ていないだろうか。Skeedの柴田巧一さんは、こう説明する。

 「センサーなどのIoT機器は、いわば一つ一つが小さなコンピュータです。SkeedOzは、IoT機器間で効率よくデータを交換する仕組みです。サーバを介さず、パソコン同士が直接データをやりとりするWinnyを思い浮かべていただければ分かりやすいと思います」

 SkeedOzは、安価で接続が容易、さらに一部の端末が故障しても残った端末で通信を継続できるため、災害時のネットワークとしても期待されている。東日本大震災では、通信基地局が津波に飲まれ、携帯電話が使えなくなった地域があった。今後も、連絡がつかない子どもや高齢者を探しに行って津波に巻き込まれるといったことは起こり得るだろう。災害の多い日本で、止まらない通信網の確立は急務だ。

 徳島県美波町では、南海トラフ地震に備え、SkeedOzの実証実験を実施した。

 「SkeedOzは、端末と端末が通信をするので、基地局が使えなくなっても通信を確保できます。美波町の実証実験では、電柱や街路灯など至る所にセンサー(P2P通信端末)を設置してメッシュ状の通信網を作り、小型のSkeedビーコン(タグ)を持った住民がセンサーの下を通ると、家族のスマホに通知されるようにしました。有事には『うちのおばあちゃんも高台に避難しているな』といったことが分かりますし、平時はそのまま子どもや高齢者の見守りに活用できます」(柴田さん)

SkeedOzの活用イメージ 提供:Skeed

 SkeedOzを使った避難訓練では、興味深いことが分かった。

 「人の動きがリアルタイムにキャッチできるので、誰が何分かけてどこに逃げたかが可視化できました。それを美波町の津波シミュレーションに重ねると、危険な方向に逃げてしまう、あるいは避難が間に合っていない住民が何人も見つかりました。こうした訓練は、津波からどう逃げるか現実的に考えるきっかけになりますし、避難行動要支援者の把握にもつながります」(柴田さん)

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