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生産性を激上げする日程調整ツール対決 Calendly vs Spir日程調整SaaS対決(3/4 ページ)

» 2023年03月31日 18時01分 公開
[武内俊介ITmedia]

10万ユーザーを突破した日程調整ツール・Spir

 Spir社はコンサルティングファーム、ユーザーベース社を経た大山晋輔氏が起業したスタートアップである。Spirは20年10月にβ版、21年5月に正式版のローンチを経て、21年7月にはユーザー数は1万人を突破。個人プランは無料で利用できるが、22年8月からはチームメンバーと連携した日程調整をスムーズにする法人プランを提供している。現在では導入社数は150社を突破し、個人版を含めた登録ユーザー数は10万人を超える急成長中のツールだ。

登録ユーザー数は10万人を超える急成長中のSpir

 Calendly、YouCanBook.me、TimeRex、eeasy、調整アポなど国内外に競合がひしめき合う日程調整ツールのマーケットで、Spirは最後発ともいえる参入だ。しかしコロナ禍の追い風もあり、スタートアップを中心に支持を集めて急成長している。資金調達環境の厳しさが増す中でも、22年2月には5.5億円の資金調達を発表し、23年度には米国への進出も表明するなど、順調に事業を拡大している。

 Spirの基本機能は、GoogleカレンダーやOutlookなどのカレンダーツールと連携し、日々の日程調整をスムーズに進められるようにすることだ。候補日程として、連携するカレンダーの空き時間を抽出して提示することに加えて、手動でも選択できたり、複数の候補日程に投票してもらったり、といった機能を提供している。

 ただし、これらの機能は当然に競合ツールにも実装されている。そんな中でSpirが支持されている理由は、使いやすいUIと細かいところまで行き届いた調整機能だろう。

 UIについては、相手側(提示された候補日程を選択する側)の画面も見やすくシンプルに作られており、他のサービスと比べても圧倒的に使いやすい。シンプルで見やすい設計思想は前述のCalendlyに近いところはあるが、日本国内においては日本語対応をしているSpirの方が支持されるのは当然だ。

Spirの画面。自分のカレンダーの空き状況から、自動的に候補日を抽出してくれる
相手にはこのように候補日が通知される

 それに加えて、候補日程を提示する側にも非常に細かい調整が可能になっている点が支持されている。ミーティングとミーティングの間を何分取るのか、1日に何件までアポイントを入れるのか、会社のカレンダーの他に個人のカレンダーも連携させるか、などやろうと思えばかなり細かいチューニングができる。また祝日については、日本の祝日の他に中国や韓国、米国、カナダなどの主要国の祝日を候補日から除外する設定が可能だ。

 SpirはPLG型のツールで、Spirを通じて日程調整を依頼された相手方がSpir上で日程を確定した際に、無料でアカウントを開設すればすぐに利用し始められる。このようなネットワーク効果を通じて、シンプルで使いやすいツールはあっという間にユーザー数を増やすことができるのである。

 また、有料版の方ではチームの複数人のカレンダーを抽出した日程調整や、用途に応じて複数の候補日程をさまざまな条件で作る機能などが提供されている。通常の営業担当者1人の商談だけでなく、部長や役員が同席するアポイントや、面接で一次面接、二次面接、最終面接で担当者が違う場合なども事前に候補日程を抽出するメンバーや条件を決めて作成しておくことで、用途に応じてそれぞれのURLを相手方に提示するだけで日程調整ができる。

 営業や人事の担当者は特に日程調整にかなりの時間を使っており、あらかじめ想定されるケースに応じて使い分けられる点は非常に使い勝手が良い。また、不特定多数の起業家との大量のアポイントを日々こなしているベンチャーキャピタルのキャピタリストなどの「人と会うのが仕事」である職業にとっても、きめ細かい設定ができるSpirは強い味方である。

 最近では、WebサイトにSpirを埋め込むことで即座に商談の日程を確定させることができる機能や、調整相手に埋めてもらう質問項目をフォームとして作成して提示する機能など、有料版のヘビーユーザーにとってさらに使い勝手が良くなる進化を続けている。

細かな設定ができるのもSpirの魅力だ

 しかし、いずれの機能もこの分野で大きく先行するCalendlyには実装済みの機能だ。商習慣や言語の壁もあって日本で大きく支持を広げたSpirが、国外に進出した際にも同じように勢力を拡大できるかどうかは未知数ではある。

 Spir社の大山氏はさまざまなインタビューの中で「日程調整ツールは人と人のつながりのデータベースを構築する上での手段である」という趣旨の発言をしており、この分野で先行するCalendlyとは将来的には全く違う事業に発展させる可能性もある。日本発のSaaSが国外でうまくいった事例はほとんどないため、今後のSpirの発展に期待したい。

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