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バード電子のパームレストだけが、なぜ魅力的なのか分かりにくいけれど面白いモノたち(2/4 ページ)

» 2023年04月17日 21時38分 公開
[納富廉邦ITmedia]

 「POKEシリーズに続けて色々考えました。『ケーブルキーパー』も、その1つです。今はもうケーブル自体が少なくなっちゃったので売れませんが、当時、会社にノートPCを持っていって、ACにつなぐとか外付けのHDDにつなぐ時に、ケーブルが机の下に落ちてると使いにくいじゃないですか。それで、ケーブルを机の上に固定できるツールは便利だったんです」

 この「ケーブルキーパー」は、今見てもシンプルでモダンなデザインなのだが、開発のヒントになったのは、銀座 伊東屋(明治37年創業の高級文具店)で見つけた製図用のテンプレート立てだったのだという。海外製の文具やデスクトップツールが好きな斉藤氏は、このケーブルキーパーやPOKEなどをまとめてシリーズ化することを考える。

バード電子の「ケーブルキーパー」。ステンレスの板を曲げただけのミニマムデザインがバード電子らしい
当時の「デスクトップ、すっきり革命」をコピーとして使ったカタログ。「パソコンの時代になって、何か作らないとヤバいなと思ったんです」と斉藤氏
バード電子「iCleeper」は、キーボードをPCの下に収納できるようにするツール。今では様々なメーカーから出ている製品だが、その元祖的な存在が、この製品だ

 「『デスクトップ、すっきり革命』という名前をコピーライターに考えてもらってカタログとかも作りました。それでマウスパッドとかペントレイとか、色々作るわけです。その時に、パームレストも作りたいと思ったんですけど、すっきりさせたいのに大きなパームレストは似合わないじゃないですか。それで、当時、小さいキーボードとして売り出していたPFUの『HHKB』に合わせたものを作ったんです。すっきりですから、キーボードも小さい方が良いということで」と斉藤氏。

 そうして生まれたのが、現在も続いていて、新製品も出ているバード電子のパームレストだった。

 バード電子のパームレストは、最初こそ今と同じく木製だったけれど、その後は、アクリル製やスチール製のパームレストも発売している。

バード電子のスチール製パームレスト。この傾斜の角度が当時の斉藤氏のお気に入りだったそうだ

 「アルミの無垢のタイプは、当時人気の小型ノートPC『チャンドラ』のIBM版みたいな『ThinkPad 235』というのがあって、それ用に作ったんです。前にチャンドラ用のインタークーラーに『ディスカバリー』と名付けたので、こっちの名前は『モノリス』にしました。『2001年宇宙の旅』の博士の名前からの連想ですね。235は、キーボードの手前にスペースがなくて、パームレストが欲しかったんですよね。ああいう、小さいパソコンが流行った時期で、マニアックな製品だったから凝る人が買うんですよ。だから、周辺機器とかそろえて可愛がるんですよね」と斉藤氏。

 その意味では、のちにバード電子と組むことになるrethinkのデザイナー・守川武氏が世界に先駆けて開発した「iPod用ケース」も同じような感覚の製品だった。その後、バード電子が守川デザインのiPodケースを次々と発売したことが、現在のiPhoneケースへとつながっている。実際、当時Apple周辺のグッズを作っていたのは、バード電子の他数社しかなく、ほとんどの製品は、その辺りから生まれた。

 初期のパームレストには、金属製で傾斜が付いたタイプの製品もある。手前側に長さが計れる目盛が付いているあたりに、斉藤氏の文具好きがうかがえる製品だ。ただ、色々試した結果、傾斜が付いたタイプは、使いにくいという結論で、結局、あまり製品化することなく、形は現在のシンプルな板状のものに落ち着いたのだそうだ。

バード電子初期の革張りパームレスト

 「当時は、ほんとうに10個ずつとか作って、売り切ったら終わりという感じでやっていました。木とかアルミとかアクリルとか大理石とかで作りましたね。木に革張りのものも作ったんですけど、実は、それは、当時、アシストオンさんで売っていたcyproductさんの革張りのパームレストが、あまりにカッコ良くて、真似して作ったんです。ただ、作るのは難しいし、cyproductさんの出来が良過ぎて、革張りはあんまりやりませんでした。まだ、当時は守川さんとの付き合いもなかったし」と斉藤氏。

 ところが、cyproductがパームレストの生産をやめたため、アシストオンからバード電子へ発注が来て、木製のパームレストが本格的に始まる。「最初は革張りのタイプも作ったんですけど、あまりに大変だったんです。cyproductさんが止めたのもよく分かりました。今は、守川さんに革を貼ってもらってるので、良いモノが作れるのですが、守川さん、忙しいから、『いつでもいいから出来たら送って』とだけ言って、入荷したら売るという感じですね」と斉藤氏。

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