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教頭先生、GoPro装着! まる1日“学校DX”の課題探し 実際にやった教育委員会に話を聞いた(1/2 ページ)

» 2023年04月24日 11時45分 公開
[吉川大貴ITmedia]

 「教頭先生の頭に『GoPro』を装着して現場を観察するなど、結構斬新なことをやった。その結果、教頭先生の机の上の紙の量に、サイボウズの方が驚いていた」──静岡県三島市教育委員会の杉山慎太郎さん(教育推進部教育総務課課長GIGAスクール推進室長)は、同市が取り組んだ教育現場の課題探しについてこう振り返る。

 同市は2021年夏、既存業務の改善を目指し、経済産業省による教育現場のデジタル化を目指す実証事業に参加。採択事業者であるサイボウズと協力し、GoProを活用した現場の課題探しや、クラウドサービスを活用した業務改善に取り組んだという。

photo 三島市立中郷西中学校

 その結果、実際に先生の負担が大きい業務を複数発見。サイボウズのクラウドサービス「kintone」を活用した効率化につなげることができたという。同市による取り組みの詳細を杉山さんに聞いた。

前々から「何とかしないといけない」 労働実態に課題

 静岡県三島市は小学校14校で児童数5340人、中学校7校で生徒数2809人(22年5月時点)を抱える自治体だ。校務支援システムなどはオンプレミスで運営しているが、生徒の出欠管理などにクラウド型のシステムを部分的に取り入れて活用するなど、デジタル活用も進めている。

 一方で、学校現場で働く教員の多忙さに課題も抱えていた。同市が18年に実施した、教職員の勤務実態に関する調査では、「毎日、仕事が勤務時間内に終わらない」という回答が全体の7割超だった。「週に1回以上、仕事を家に持ち帰る」と答えた人も6割を超えたという。

 「実態を踏まえ、何とかしないといけないという意識は前々からあった。ただ、何が効果的かはなかなか分からなかった。どうしても校長先生のマネジメントに頼りがちで、教育委員会として何ができるかの答えがなかった」(杉山さん)

 そんな同市に声をかけたのがサイボウズだ。同社は経済産業省による教育現場のデジタル化を目指す実証事業「未来の教室」に採択されており、当時は事業の実証校を探している段階だった。そこで文科省内のアドバイザーから三島市を紹介されたという。目的が一致していたことから、三島市もサイボウズのサポートを受けながら業務改善することに決めた。

教頭先生、GoPro装着! 目的は現場の課題探し

 具体的な取り組みは21年夏に開始。まずは中学校1校を対象に、教職員の負担になっている業務の洗い出しから始めた。ただ、コロナ禍が拡大している最中ということもあり、なるべく接触を避けての課題探しが必要だった。

撮影した映像

 そこで、対象校の教頭先生にGoProを装着してもらい、1日の活動を録画。映像を基にサイボウズ側が現場の業務を確認することにした。当日は、職員室での朝礼から帰宅前の施錠確認までを記録。周囲から「YouTuberみたい」などと声をかけられることもあったという。

 その結果、見つかったのは学校現場から教育委員会への報告が現場の負担になっているという課題だった。例えば、設備の修繕に関する依頼・報告業務に手間がかかっていたという。対象になった学校ではこれまで、設備の修繕を教育委員会に依頼する際、教頭先生が現場で写真を撮り、Excelで作った文書に貼り付けてメールで送っていた。

 しかし、今までの手法では教頭先生の手間が多く、依頼1件につき1時間程度の時間がかかっていた。教育委員会側もメールを見逃してしまうリスクがあった。そこで、kintoneを活用した効率化に挑戦したという。

 kintoneはプログラミングできない人でも業務用のアプリやツールを作れるサービスだ。IT業界ではノーコード開発ツールなどとも呼ばれる。三島市はkintoneを活用し、タブレット端末で写真を撮影し、専用の画面からそのまま依頼内容を入力・送信できるツールを開発。22年1月ごろ、管轄する小中学校全校に展開した。

 アプリには、承認や修繕の状況を確認できる機能も搭載。教育委員会側の使いやすさも意識し、依頼があったときに通知する機能や、過去の依頼を一覧で閲覧できる機能も追加した。杉山さんによれば、依頼1件当たりの所要時間は半分ほどに減り、連絡がうまくいかなかったときに再度電話で連絡する手間などもなくなったという。

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