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MacやWindowsには“元ネタ”があった 「パロアルト研」が残した「Alto」を振り返る(3/4 ページ)

» 2023年04月28日 14時30分 公開
[松尾公也ITmedia]

AltoとWindowsの関係

 MicrosoftはMacintoshローンチ時の強力なサードパーティーとして、開発機とユーザーインタフェースの機密情報を開示されていましたが、AppleがMacintoshを発売して1年後の1983年秋までマウスを使うアプリケーションをリリースしてはいけないという契約(当初Macintoshは1982年に発売予定だった)で縛られます。

 しかし、Macintoshの発売が大幅にずれ込んだため、その発売前にMicrosoftがマウスを使ったGUI環境であるWindowsを発表することが法的に可能となったのです。Windowsの製品としてのリリースは1985年になりますが、Macintosh発売前の1983年に発表されたことによるダメージは大きなものがありました。

 ビル・ゲイツはPARCでWYSIWYG(What You See Is What You Get)のワードプロッサBravoを開発していたチャールズ・シモニーほか数名を雇い入れていたので当然ながらAltoのことを知っており、さらに開発中のMacintoshの内部まで把握していたわけです。

 つまり、WindowsもまたAltoの子供であるということになります。

 この件で怒り狂ったジョブズにゲイツが投げた回答が素晴らしいです。「ぼくらの近所にすごい金持ちのXeroxさんがいて、そこにぼくがテレビを盗みに入ろうとしたら君がもう盗んだ後だった。そんな感じだよね」

 この辺の経緯を織り込んだ1999年公開の映画「バトル・オブ・シリコンバレー」(Pirates of Silicon Valley)のクライマックスは、Apple社員が日本で手にしたNECのPCにインストールされたWindowsをジョブズに見せ、激怒したジョブズがゲイツを呼び出してなじると、ゲイツはこの返事をするところ。

photo NECのPCにインストールされたWindowsを見てお怒りのジョブズ(画像:「バトル・オブ・シリコンバレー」)
photo 金持ちのXeroxに俺も盗みに入ったのさとゲイツ(画像:「バトル・オブ・シリコンバレー」)

 もちろんフィクションが大半でしょうが、この映画でジョブズを演じたノア・ワイリーがMacworld Expo基調講演冒頭にジョブズコスプレで現れ、その後で本物が出てくるといった仕掛けをするくらいジョブズも気に入ってるのだから、少なくともジョブズ本人が納得できるくらいのリアリティーだったのでしょう。

 最初のWindowsについては、1987年に日本語版1.0βのレビュー記事を書いたことがあります。このレビューで筆者はウィンドウシステムがMacintoshのようなオーバーラッピング(複数のウィンドウを自由に重ね合わせることができる)ではなく、タイリング(分割表示)しかできないことを弱点と指摘していますが、PARCでの研究でタイリングの方が適していたためそちらを採用したと主張していたことを改めて書いておきます。いずれにしても出自はPARCなわけですが。

Altoのその後は?

 では、盗まれ放題だったXeroxはAltoの資産をどうしたかというと、それなりの製品にはしていたのです。Xerox Star。日本ではJ-Starとして発売されました。フォルダとアイコンのデスクトップメタファー、イーサネットといったPARCの資産を生かしつつも、Altoとは異なった方向性で、ドキュメント制作に重きを置いたもの。

 価格は本体のみで500万円超え。プリンタやサーバを組み合わせると1000万円を超えます。それでも当時としては画期的なオフィスワークステーションであり、日本の大企業に導入されました。筆者の妻も1985年ごろ、会社でマニュアル制作に使っていたと話していて、うらやましいなと言った記憶があります。

 ページ記述言語PostScript(これもPARCにいたチャールズ・ゲシキとジョン・ウォーノックが開発したInterpressを発展させてAdobe Systemsを作り、Appleが支援した)をベースにしたDTPが始まり、その主役マシンがMacintoshになるまでは、J-Starに一定の用途はあったのです。

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