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スラムダンク大ヒット “海賊版天国”だった中国が「本物」を買うようになったワケ(1/3 ページ)

» 2023年05月19日 16時00分 公開
[山谷剛史ITmedia]

 中国でも(中国向けには発売予定のない)「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ キングダム」発売を待ち焦がれる人々がいる。彼らは発売日が決まったときから淘宝などに出店するゲーム屋に対し、発売日に海外での代理購入を頼み、料金を前払いした。一方で発売日前に一時期データ流出騒ぎがあり、中国のSNSではそれを得たと報告した人にファンから非難の声が多数浴びせられた。

 4月には中国で映画「スラムダンク」が記録的な興行収入を記録し、一時は映画館で「こんなに席が埋め尽くされるのは見たことがない」と言われるほど多くの人が映画にお金を落とした。話題の作品だけにスクリーンを撮影して海賊版を配信する人々も出てきたが、「ファンとして映画館で金を落として体感したい」という声もまた多く目にした。

北京大学が実施したスラムダンクの上映会(北京大学公式Weiboから引用

 また2023年2月にはこんなニュースも。アメリカで開催されたCapcom Cup IXのストリートファイターVの世界大会(Last Chance Qualifier)で、中国出身のZhen選手がベガを使い強豪プレーヤーを次々と倒し準優勝した。ストリートファイターの中国での公式大会「CAPCOM Pro Tour」は2017年からはじまり、中国でゲーム好きのプレーヤーが集まってサークル・コミュニティを構築。今年9月に中国杭州で開催されるアジア大会では、ストリートファイターシリーズのタイトルを使って競技をすることも決まっている。

 かつて「海賊版天国」と言われていた中国だが、今は若者がコンテンツを金を払って正規版で見る動きが見られる。この動きは本物であり今後も続くのか、中国人全体の傾向としてあるのかを考察したい。筆者自身もITmediaでかつて中国の海賊版にまつわる記事を書いている。その当時を振り返りながら、どこが変化し、なぜ変化できたのかを考えていく。

20年前の中国事情は

 筆者が中国に暮らしはじめてIT事情をウォッチし始めたのはおよそ20年前となる2002年のこと。海賊版のソフトやゲームや映画が詰まったCD-Rを販売する屋台や商店が当たり前にあった。ソフトを扱うパソコンショップや国営の書店「新華書店」にも箱のパッケージとなった海賊版が置かれていた。

中国にあった海賊版の店舗(2004年筆者撮影

 つまりソフトやコンテンツを買おうとすると安い海賊版と高い海賊版しかなく、安いものはソフトウェア代は物理的な円盤の枚数で決まった。当時本人たちはそれが当たり前だから、自分のいる環境について(海賊版)天国とは思っていないが、正規版の入手が極めて難しかったため、敢えて正規版を買おうものなら偏屈な人に見られた。

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