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炎上加担、実際は40万人に1人 経済学者が誹謗中傷の"リアル"分析

» 2023年06月29日 12時30分 公開
[谷井将人ITmedia]

 「SNS上の意見の46%が極端な意見でも、社会全体を見れば極端な意見を持っている人は14%」「炎上事件を見て批判している人はネットユーザーの約40万人に1人」──6月28日に開催されたクリエイターエコノミー協議会の発表会で、経済学者の山口真一博士が、誹謗中傷の実態について語った。ネガティブな意見は多いように見えるが、発信している人数を見るとごく少数という。

photo 山口真一准教授(国際大学)

25%:クリエイターの誹謗中傷経験率

 誹謗中傷は2020年にプロレスラーの木村花さんがインターネット上で受けた被害により自ら命を絶った件で大きく社会問題化し、法改正もなされた。山口博士によると、誹謗中傷の経験率は一般人で4.7%、YouTuberなどを含むクリエイターでは約25%に上った。異なる調査での数字のため単純比較はできないが「情報発信を積極的にしている人は経験が多い」という。

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 また、誹謗中傷経験率は年齢を重ねるにつれ低くなる傾向にあることも分かっている。山口博士らが一般人を対象に実施した調査では、10代男性が最も高い10.6%、60代女性が最も低い1.0%だった。山口博士はクリエイターでも似たような傾向があるのではないかと推測している。

0.00025%:炎上事件にネガティブな書き込みをしている人

 インターネット上では、特定の人物や団体に批判が殺到する“炎上”がたびたび起こる。しかし人数で見ると、批判コメントを投稿している人は少ない。

 山口博士の調査によると、22件の炎上事件を分析したところ、Twitterでネガティブな書き込みをしている人は炎上事件1件につきネットユーザーの0.00025%。約40万人に1人の割合だった。特に規模が大きい炎上事件でも0.0125%にとどまったという。ほとんどの人はそもそも炎上事件について投稿していない。

57〜71%:炎上参加者のうち、正義感から発信した人

 そんな少数の“炎上加担者”の過半数は正義感から炎上事件にネガティブな書き込みをしているという。調査によると、書き込みの動機は「間違っていることをしているのが許せなかったから」「その人・企業に失望したから」などが多かった。

 逆に「多くの人が書き込んでいるから」「書き込むのが楽しいから」「ストレス解消になるから」などの理由で炎上に参加した人は少なかったことが分かった。正義感から書き込んでいるため「誹謗中傷していることに気付いていないケースも多い」(山口博士)という。

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14%対46%:「極端な意見を持つ人」対「極端な意見の数」

 TwitterなどSNSではさまざまな事象について議論がなされているが、中には極端な意見を発信する人もいる。山口博士は「憲法改正」というトピックについて、「非常に賛成」「賛成」「どちらかといえば賛成」「どちらともいえない」「どちらかといえば反対」「反対」「絶対に反対」に属する人が社会にどの程度いるかを調査。SNS上ではそれぞれの意見について発信された投稿の数の分布を調べた。

 人数比では「非常に賛成」「絶対に反対」という極端な意見の人がそれぞれ約7%。「どちらともいえない」に近づくにつれ人数比も高くなる正規分布的なグラフになった。

 一方、SNS上の投稿数では「非常に賛成」の意見が30%近くを占め、「反対」」「絶対に反対」の意見も人数比に反して割合が高くなっていた。この調査で、SNSにおける極端な意見の投稿数は全体の46%を占めるが、社会における極端な意見の持ち主は14%にとどまることが分かったという。

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 山口博士は、SNSでは言いたいことがある人が投稿するため、極端な意見が目立ちやすいと分析している。

1.8倍:ネット外での誹謗中傷÷SNSでの誹謗中傷

 誹謗中傷はSNSなどネット上で発生しているものもあるが、実際はネット外での誹謗中傷の方がSNS上のものより多いという。山口博士の調査によると、SNS上で誹謗中傷を受けた経験がある人は全体の4.7%だったが、ネット外では8.6%に上った。

 山口博士は「クリエイターは個人・少人数での活動が多く、誹謗中傷に対して脆弱なため、個人を組織が守る仕組みが必要」と説明。サポートする企業などには、裁判などのアクションをサポートする仕組み、相談窓口やカウンセリングの充実、啓発活動などが求められるとしている。

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