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ヤプリが新事業 ノーコード・CRMに次ぐ3本目の柱に

» 2023年08月10日 10時03分 公開
[斎藤健二ITmedia]

 ノーコードのアプリ開発プラットフォームを提供するヤプリが、HRテック領域に参入する。これまで同社のプラットフォームは、小売や流通などの業種で、ポイントカードアプリやEコマースなど顧客との関係構築向けに使われてきた。一方、8月9日に発表した新サービスでは対象を社員に変更。組織と社員の関係「組織エンゲージメント」を強化するための機能を提供するという。

 新サービスの名称は「Yappli UNITE」。スマートフォンアプリとして提供するサービスで、中核製品であるノーコードアプリ開発の「Yappli」、2022年に投入したノーコードCRM(顧客関係管理)の「Yappli CRM」に続く、3つ目の柱に位置づけるという。

photo ヤプリの庵原保文社長(中央)

社員の交流を促す機能搭載 社長メッセージ送信、社員図鑑作成など

 組織エンゲージメントには、理念やビジョンの共有・業務効率化に向けた社内Q&Aなど社員の一体感や交流を促進する側面と、従業員へのサーベイや行動分析という2つの側面がある。Yappli UNITEは前者の支援に特化したサービスだ。

 例えば、社長や役員からのメッセージを社員に送信する機能、社員のプロフィールなどをまとめた「社員図鑑」を作る機能、研修資料や動画を配信する機能などを備える。一連のコンテンツは、特定の役職や支社だけに通知したり、開封率の低いグループだけにプッシュ通知したりすることもできる。

photo 新サービスのイメージ

 出社を促したり、社員同士のコミュニケーションを支援するような機能も搭載。例えば位置情報を使い「オフィスに出社した人しか押せない社内カフェのスタンプを貯めると、ドリンクやスイーツが無料になる」仕組みを実現したり、「アプリから七夕の願い事を送信すると、アプリ内で共有される他、実際に印刷されオフィスの短冊としても掲示する」催しを開いたりできる。社員交流イベントで、互いのQRコードを読み取り合って交換し、一定数集めると景品がもらえる──といった仕組みも可能という。

 同社の山本崇博COOはサービスについて「アプリで情報発信をするだけでなく、人と人をつなげる関係性の構築に役立つ。管理分析のソリューションは増えているが、理念やビジョンの浸透、カルチャー醸成といった領域に注力したソリューションは数が少ない」と強調する。

背景には人的資本の情報開示義務化と、働き方の多様化

 そもそも、ヤプリが組織エンゲージメント領域に進出する背景には2つの理由がある。一つは「人的資本経営」への関心の高まりだ。

 人的資本経営とは、人材を資本として捉え、その価値を引き出す経営手法のことだ。20年に経済産業省が発表した「人材版伊藤レポート」において重要性が強調され、21年には東京証券取引所がコーポレート・ガバナンス・コードを改定。上場企業に対し、人的資本に関する情報開示を求めた。さらに22年には「人的資本可視化指針」を政府が公表、そして23年には上場企業に対し、人的資本情報の開示がを義務化した。

photo 人手不足に加え人的資本経営に対する制度の後押しもあり、組織エンゲージメントへのニーズは急速に高まっている

 企業は社員の研修プログラムや、従業員満足度、男女間の給与差、正社員と非正規社員の福利厚生の違い、離職率や採用コスト、また性別や人種などの属性別の比率など、多様な項目の開示が求められる。これにより、上場企業などの大企業が、組織エンゲージメントへの関心を高めているわけだ。

 2つ目はリモートワークの普及や人手不足による多様な働き方の広まりだ。働き方の多様化が進むいま、組織エンゲージメントに課題を感じる企業も増えている。コロナ禍を経てリモートワークが増加した結果、社員同士の深い関係が築きにくい、雇用形態や働く時間の違いによって、情報浸透にムラがある、エリアや支社が多く、組織の一体感が醸成されないといった問題だ。

 人手不足の昨今、組織エンゲージメントを改善することで離職率や生産性にプラスの効果が期待される。こちらは上場企業にかかわらず、中小企業も含めた広い業種で期待が高まる理由となっている。

初年度ARR3億、100社規模の提供を目指す

 庵原保文社長は新サービスについて「初年度ARR(年次経常収益)3億円規模になると思っている。導入社数でいえば100社くらい」と目標を語った。同社のARRは3月末時点で37億9000万円だ。

 今後はYappli UNITEのテスト版でもある自社向け組織エンゲージメント強化アプリ「Yappli HangOut」を使って新機能を開発・検証。他のHR Techサービスとの連携も強化していくという。

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