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「ジャマな広告」か「有料化」か ネットニュースの明日はどっちだ?小寺信良のIT大作戦(2/3 ページ)

» 2023年08月25日 10時00分 公開
[小寺信良ITmedia]

広告と消費者のせめぎ合い

 消費者が広告に対抗する手段としては、広告ブロッカーと呼ばれるブラウザ拡張機能が広く用いられている。あるいはBraveのように、最初から広告をブロックする機能を搭載したものもある。

 これに対抗してニュースサイトでは、広告ブロッカーが使用されているかどうかを検知して、これを外すようにアラートを出す方法をとった。この対応も、運営者の考え方が如実に現われる部分である。広告収入のためと断りをいれて、読者に機能をOFFにするよう依頼するだけのサイトもあれば、機能をOFFにするまで絶対に記事を見せないという強硬な手段を取るサイトもある。

 確かに広告モデルによる無料サイトで広告をブロックするのは、フリーライドといわれても仕方がないところではある。だがそもそも広告とは、「よく目にする」ことで効果を狙うものであり、強制力を以て見せつけたり、セールスに直結しなければ意味がないというものでもない。

 こうした広告ブロッカーは、そのブラウザを使わないアクセス、つまりスマートフォンのアプリから直接アクセスする際には機能しない。そこで数年前から注目を集めているのが、VPNを使って広告をブロックする方法だ。方法自体はもっと以前からあったようだが、サイトアクセスがスマートフォンに主戦場を移したころから、注目され始めた。

 ただしこうしたプラットフォーム全体で広告をブロックする方法を提供するアプリは、Google Playではポリシー違反だとして配信されない(審査落ちする)ケースもあるようだ。そもそもGoogleがネット広告の親玉みたいなものである一方で、ユーザーの自由は担保しなければならない立場でもあり、矛盾する2つの方向性の中で、立ち位置に苦慮している。

 Googleと広告の関係では、YouTubeの有料プランであるYouTube Premiumの考え方も1つの方法である。いくつかの特典があるが、最大のポイントはお金を払えば広告を見なくていいという、シンプルな動機付けがあることだ。

 カネで広告から解放されるというのは、SF小説や映画でよく登場するプロットだが、現代社会ではカネを払って強力な広告ブロッカーを買うか、Googleにカネを払って黙ってもらうのかの二択だとすれば、退廃的な未来はもうすぐそこだという気がしないでもない。

カネを払っても黙らない新聞

 筆者は仕事柄、新聞各紙の記事を比較する必要があることから、複数の全国紙新聞社の有料会員になっている。新聞社の有料会員制度は、カネを払わなければ続きを読ませないというモデルであり、広告を出さないわけではない。

 これは新聞という古いモデルが、カネを払って紙を配達してもらい、さらには広告も読ませるというモデルだったからだろう。広告も1つの情報であるという見方も、否定できるものではない。とはいえ、記事を有料で売り、しかも広告収入まで入るのであれば、他の出版社系ニュースメディアよりも相当有利なはずである。

 カナダでは、米Metaや米Googleなどのプラットフォーム上に表示される記事については、記事を提供するメディアへの利用料支払いを義務付ける「Online News Act」が可決された。これには、大手テック企業が広告収入で莫大な利益を上げる一方で、ニュースメディアの広告収入を圧迫しており、メディアの存続が危うくなっているという背景がある。

 やり玉に上げられたMetaとGoogleでは、同社のプラットフォームでカナダの報道機関のリンクを掲載しないという報復措置を取っている。ほかにもリンクを掲載しているプラットフォームはあるのに、2社だけに支払いを求めるのは不公平である、という主張だ。

 Googleでは、同社プラットフォームからは年間で36億回を上回る送客があるとしており、この数がなくなれば、ますますメディアは苦しくなる。同様の立法措置に関する騒動は、2021年にオーストラリアでも起こっており、このときは記事掲載ボイコットにより法律が修正されるという顛末になっている。

 仮にこうしたことが日本で起こるとすれば、相手は「Yahoo!ニュース」になるだろう。主要新聞社・通信社のニュースを掲載し、PVが最大化した2020年には、1日のPVだけで約5億、月間で225億を超えた。ここまで突出すると、もはや記事はYahoo!ニュースに載っただけで「跳ねる」事になる。

 記事掲載でいくばくかのペイバックはあるにしても、新聞社系メディアの収支がこのまま悪化していけば、そこで得られている広告収入はもともとはうちのもんじゃないのか、というカナダでの議論もまた、起こるかもしれない。1社で立ち向かってもBANされて終わりなので、業界全体でロビイングして法制化を目指すというのは考えられる。ただヤフーの法務部も常日頃からロビイングはガッツリやっているので、この線は相当な困難が予想される。

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