本気で「未来」を考える企業が増えています。それも5〜10年後といった直近ではなく、20年、50年、果ては100年後の未来です。外部環境の変化が激しく、数年先が見通せない現在、より遠い未来像を基に企業のビジョンを作ったり事業のアイデアを生んだりしようというのです。
例えばソニーグループでは2050年の健康や人生をテーマにした試作品をデザイン部門が作り、パナソニックではZ世代が100歳になる2096年の暮らしを考えるプロジェクトを実施しています。他にもNECやLIXIL、農林水産省などさまざまな組織が未来を考えています。
未来を考える手法の一つが、SFをビジネスに生かす「SFプロトタイピング」です。どのようなメリットがあるのか、どう取り組めばいいのか。同手法の実践をサポートしている企業ロフトワーク(渋谷区)とアーティストの石原航さんを、SFプロトタイパーの大橋博之さんが取材しました。(ITmedia NEWS編集部)
こんにちは。SFプロトタイパーの大橋博之です。この連載では、僕が取り組んでいる「SFプロトタイピング」について語っていきます。SFプロトタイピングとは、SF的な思考で未来を考え、SF作品を創作するなどして企業のビジネス等に活用するメソッドです。
今回は、ロフトワークの丸山翔哉さんとアーティストの石原航さん、そして僕の3人による鼎談(ていだん)でお届けします。
テーマは「SFプロトタイピングを効果的に行う方法」。SFプロトタイピングを実施する上で気を付けたいことなどを語り合いました。
共創を通じてWebサイトやコンテンツ、コミュニケーション、空間などをデザインするクリエイティブカンパニー。全ての人のうちにある創造性を信じ、さまざまな企業・組織の課題解決や新しい価値創出をプロジェクト型で支援している。
大橋 今日は「SFプロトタイピングを効果的に行う方法」をテーマに、語り合いたいと思います。
以前から未来を研究するシンクタンクはたくさんありましたが、そういう機関が提案する「科学ありきの、実現可能な未来」とは違うアプローチとしてSFプロトタイピングが注目されていると感じています。
昔は、未来を考えるとき、SFの力を使っていました。それこそ理想の未来象を描いた1970年開催の「日本万国博覧会(大阪万博)」では、漫画家の手塚治虫さんや、いろいろなSF作家がブレーンとして参画していました。そもそも大阪万博の基本理念を作成したのが、SF作家の小松左京さんが中心となった「万国博を考える会」です。それなのに「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)」ではSF作家は絡んでいない。そこにはSFの力を誰も理解していないということがあるのだと思っています。
SFプロトタイピングは、いい意味でSFの力が再認識できる機会と捉えています。その話は置いといて(笑)。
「SFプロトタイピングを実施したいけれど、どうすればいいか分からない」という企業が結構多いというのが、僕が取材を続けていて受けた印象です。ロフトワークさんもSFプロトタイピングを提供していますが、SFプロトタイピングにどう取り組めばいいとお考えですか?
丸山 僕は、SFプロトタイピングという思考自体がトップダウンではなく、ボトムアップで民主主義的にいろいろな人を巻き込んで模索していくものだと思っています。
企業は組織なので意思決定者がいて、企業の未来は意思決定者が考えるものです。しかし、そこをある種「度外視」をした上で、一人一人が未来を考えていく。そういったマインドセットが必要です。依頼や相談を受けるときにはよく「SFプロトタイピングに向き合うことが大事」とお話しています。
ロフトワーク MVMNTプロデューサー/サウンドアーティスト/imkp Lab.所長
慶應義塾大学総合政策学部を経て、サウンドアーティストとして活動。2023年4月プロデューサーとしてMVMNTに参画。主に研究開発事業やサービスデザインなどMVMNTの自主事業に携わっている。
アーティスト活動において聴取環境についてのサウンドスタディーズのリサーチから音響表現を中心に、サウンドメイキングやインスタレーション、VRの制作を行う。
2022年から3DCGアーティストや映像作家3人によるアートリサーチコレクティブ「IEEIR」を結成し、多方面でコラボレーション制作も行なっている。主な受賞歴に「NEWVIEW AWARD 2022」グランプリなど。
石原 一人一人が未来を作り出すというのは、前提として大事です。SFプロトタイピングを表面的に見ると、SF作家やクリエイターにビジョンを作ってもらうようなものです。ビジョンを外注して納品してもらうのは、捉え方によってはすごく情けないやり方だと思います。
「ビジョンは自分たちで作らなければいけない」とマインドセットし、SFプロトタイピングをメソッドというよりは、アティチュード(心構え)として「この人と一緒に作りたい」と思うSF作家やクリエイターとコラボレーションするのが良いと思います。
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