コロナ禍で1年先も分からない。それなら30年後の方が想像しやすい――ソニーグループのデザイン部門が、こんな発想でSF作家とともに2050年の未来を想像してSF小説やプロトタイプを制作しました。
制作したのは、人生の可能性を算出するAIや、感情の変化に応じてカウンセリングするAIなど。参加したデザイナーの1人は「何年も先の商品やサービスのデザインを求められることが多いので、役立つ知識を身に付ける必要がある」と話します。
この取り組みでは、SF的な思考をビジネスに生かす手法「SFプロトタイピング」を活用しました。ソニーグループのデザイン部門がSF的思考をどう使ったのか、SFプロトタイピングを手掛けるSFプロトタイパーの大橋博之さんが取材しました。(ITmedia NEWS編集部)
こんにちは。SFプロトタイパーの大橋博之です。この連載では、僕が取り組んでいる「SFプロトタイピング」について語っていきます。SFプロトタイピングとは、SF的な思考で未来を考え、SF作品を創作するなどして企業のビジネスに活用するメソッドです。
今回は、SFプロトタイピングを実践した、ソニーグループの事例を紹介します。 ソニーグループのデザイン部門「クリエイティブセンター」では2021年、「2050年の東京」を描くプロジェクト「ONE DAY, 2050/Sci-Fi Prototyping」を実施しました。
これは「2050年」「東京」「恋愛」という3つのキーワードをベースに、「WELL-BEING」「HABITAT」「SENSE」「LIFE」という4つのテーマで、ソニーグループの若手デザイナーとSF作家が、およそ半年にわたって断続的にワークショップを重ね、4つの「デザインプロトタイピング」と4つのSF短編小説を創出するという試みでした。
その成果はSony DesignのWebサイトで発信するとともに、2021年に東京・銀座の施設「Ginza Sony Park」や京都で開催したエキシビションで展示しました。
当時、僕が銀座で見たこのエキシビションは、とても衝撃的なものでした。いつか取材をさせていただきたいと考えていましたが、今回遅ればせながらお話を伺えることになりました。
ソニーグループの大野茂幹さん(クリエイティブセンター/総括部長)、尾崎史亨さん(クリエイティブセンター/リサーチプロデューサー)、青島千尋さん(クリエイティブセンター/デザイナー)、松原明香さん(クリエイティブセンター/デザイナー)にインタビューさせていただきました。なおソニーはグループ経営の強化を目的とした経営機構改革のため、2021年に「ソニー」の商号を変更し、「ソニーグループ」に改めています。
ONE DAY, 2050/Sci-Fi Prototypingの4テーマとデザインプロトタイプは本記事4ページ目で詳しく紹介しています。
大橋 プロジェクトを推進されたクリエイティブセンターとは、どのような組織なのですか?
大野 簡単に言うと、ソニーグループ全体のデザインを担当しているインハウスのデザイン部門です。クリエイティブセンターの発足は1961年にさかのぼります。当時はデザイン室と称していました。後にソニーの社長に就任する大賀典雄さんが社内に散らばっているデザイナーを集めてデザイン室を作り、現在の“ソニーデザイン”の礎を築きました。
ソニーグループが掲げている事業は「ゲーム&ネットワークサービス」「音楽」「映画」「エンタテインメント・テクノロジー&サービス」「イメージング&センシング・ソリューション」「金融」の6つの領域に及びます。クリエイティブセンターでは、これらの事業に何かしらのデザインを提供しています。ソニーと聞くとカメラやオーディオなどのエレクトロニクス製品を思い浮かべると思いますが、実はエンタテインメントや金融などさまざまなものがあり、それらのデザインにも携わっています。
大橋 広いデザイン活動をされているのですね。
大野 われわれはソニーグループ全体のブランド戦略として一体感を持たせるために日々、努力しています。
また、従来はソニーグループのためのデザイン活動でしたが、多様なデザイン業務を社外にも提供する会社を設立し、企業や公的機関にデザインサービスを提供することにも取り組んでいます。
大橋 組織の立ち位置がよく分かりました。それでは改めて、自己紹介をお願いします。
大野 私はクリエイティブセンターの企画推進グループで総括部長を務めています。業務にはイタリアで開催されるデザインの祭典「ミラノデザインウイーク」やアメリカで開催される音楽や映画などを組み合わせた大規模イベント「サウス・バイ・サウスウエスト」(SXSW)などでのインスタレーションの企画や、社内の大型プロジェクトのマネジメントなどがあります。
私が携わったONE DAY, 2050/Sci-Fi Prototypingのプロジェクトは、2021年がデザイン室設立60周年だったことを記念して企画したものでした。
尾崎 私はリサーチプロデューサーを担当しています。クリエイティブセンターは大半がデザイナーという組織ですが、私はデザイナーではなく、デザインをするための材料となる情報のリサーチを行っています。
ソニーグループは事業がさまざまに広がったことで、世の中のデザイントレンドにとどまらず、社会の潮流や消費者動向などクロスインダストリーかつ広範にわれわれ自身でリサーチする必要があります。そのようなリサーチを行うのが役割です。ONE DAY, 2050/Sci-Fi Prototypingでは、ただ「2050年の世界を創造してくれ」と言っても難しいと考え、予備情報を調べて提供していました。
松原 私は、テレビやオーディオ機器を担当するチームの中でも製品をどのように紹介するかを考えたり、製品の機能を説明するロゴを作ったりするコミュニケーションデザイン業務を行っています。ONE DAY, 2050/Sci-Fi Prototypingでは、LIFEチームのリードのポジションでした。
青島 私は、「NURO光」などを手掛けるソニーネットワークコミュニケーションズのデザインを担当するチームに属しています。ただ、最近ではクロスアサイン(事業横断)で行うことが多く、例えば補聴器のブランディングを担当しました。ONE DAY, 2050/Sci-Fi Prototypingでは、WELL-BEINGチームのリーダーを担当しました。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR