こんにちは。SFプロトタイパーの大橋博之です。
この連載では、僕が取り組んでいる「SFプロトタイピング」について語ります。SFプロトタイピングとは、SF的な思考で未来を考えた上で、実際にSF作品を創作して企業のビジネスに活用することです。
今回はSFプロトタイピングの実践事例として、東京都下水道局が実施したプロジェクト「東京地下ラボ by 東京都下水道局」を紹介します。詳しいお話を東京都下水道局にお伺いしました。
取材は東京都下水道局の守屋俊克さん(下水道局総務部広報サービス課 課長代理)と武笠哲也さん(下水道局総務部広報サービス課 広報担当 主任)に対応して頂きました。同局を訪ねたのは僕とITmedia NEWS編集部の荒岡瑛一郎さんです。
東京地下ラボとは、下水道の新たな可能性や魅力を発信して若い世代の関心を高めることを目的に、東京都下水道局が2018年度から取り組んでいるプロジェクトです。東京地下ラボで開催するワークショップやフィールドワークなどに学生が参加して、下水道の仕組みや役割を学び、下水道の魅力を広く伝えていくものです。
東京地下ラボが始まった背景には、東京都下水道局が抱える課題があったといいます。「下水道に関する意識調査を行ったところ、下水道への関心が薄い方の割合が多くを占めました」(守屋さん)
高度成長期、下水道インフラが急速に整備されて生活環境が改善していく経験をした世代ならば、下水道の発展や役割を認知できるでしょう。しかし既に下水道が日常の中で当たり前になっている現在は、その存在を意識する機会が少なくなっています。
「特に若い世代ほど、下水道の認知度が低くなる傾向があると分かりました。若者に対して、下水道が持つ社会的な役割などをもっとPRする必要があると考えて始まったのが、東京地下ラボです」(武笠さん)
東京地下ラボがスタートした2018年度は「下水道の魅力を、編集の力で若者が再発見」と題し、大学生など若者が下水道に関する知識と、情報発信といった編集スキルを学んで雑誌(ZINE:ジン)を制作しました。
2019年度は「下水道の魅力を、クリエイティブの力で若者が再発見」というテーマでした。参加学生がアイデアを形にする方法や下水道の役割について学び、グループごとに30秒の動画を制作しました。
そして2021年度に「下水道の可能性を、想像力によって拡張する」を掲げて、参加学生がSFプロトタイピングを使って「2070年の下水道がある世界」を創造し、得意とする表現方法で作品を制作しました。
併せて特設サイトを公開し、制作した作品を公開しています。なお現在は東京都下水道局のWebサイト内に移動しており、そこで作品を見られます。
「若者に関心を持ってもらうためには、若者に刺さるアプローチが必要です。そこで、これまでの雑誌編集や動画制作とは異なる手法として、若者に関心が高いと思われるSFプロトタイピングを活用することになりました」(守屋さん)
なぜ、SFプロトタイピングだったのでしょうか。その理由をお聞きしました。
「現代社会にはさまざまな課題があります。そうしたソーシャルな課題にどう立ち向かって行くべきなのかを考える手段として、想像力を生かして新しい発想を得られるSFプロトタイピングに着目しました」(守屋さん)
「下水道が果たす役割をPRする方法として、『下水道がなかったら』『未来の下水道はどうなる?』といった具合に想像力を働かせることは、新たな可能性を発見する手法として有効だと考えました」(武笠さん)
そこで、雑誌「WIRED」が運営する「WIRED Sci-Fi プロトタイピング研究所」にも協力を依頼し、取り組む上でのプログラムを検討したといいます。
まず2021年10月から実施の告知を始め、参加者を募集しました。参加単位は個人またはグループ(1〜5人程度)とし、参加対象者は大学生や大学院生、専門学生、高専生といった若者に限定しました。そして全日程に参加できることが条件でした。
また、最終的には参加単位で1つの作品を制作することが必須です。そこで、応募する個人またはグループで過去にイラストやグラフィック、小説、漫画といった何らかの創作活動の経験があることを条件に加えました。
特に参加を呼びかけたのは、物事の新しい魅力を探し出すのが好きな人、SNSで情報発信することに興味がある人、都市インフラや地域活性化に関心がある人、水環境問題やSDGs(持続可能な開発目標)などの社会課題について考えたい人、第一線で活躍するクリエイターや専門家から直接知識を学びたい人、行政の事業に携わってみたい人が中心でした。
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