大橋 未来を考えるとき、ロフトワークさんではどのような手法を使っているのですか?
丸山 ロフトワークは「トランジションデザイン」をいち早く取り入れつつ、コミュニティー作りを進めています。トランジションデザインというのは、地球規模の問題に対してどのように価値移行を実施するのかというデザイン思考です。SFプロトタイピングの思考に似ていますが、取り扱う実証の粒度に違いが出てきます。
両者を組み合わせることも多いです。例えばトランジションデザインのシナリオプランニングの段階で、SFプロトタイピングを使用するケースがあり得ます。
私たちが取り組むSFコミュニティー「imkp Lab.」(イマケピラボ)ではSFプロトタイピングの新たな可能性としてトランジションデザインのフレームワークを使う取り組みを検討しています。それぞれの考え方にないものを掛け合わせて作り上げていくところは、これから徐々に交差していく部分ではないかなと思います。
石原 使える手法や思考法はいろいろありますが、その根底にある考え方を理解することが大切です。樋口恭介さんが書かれた書籍「未来は予測するものではなく創造するものである」を読むと、樋口さんご自身がコンサルタントであることもあってロジカルシンキングの限界などを背景として意識しながら SFプロトタイピングを位置付けているように思えます。
他にも「スペキュラティブデザイン」はその背後に「インタラクションデザイン」や「デザインフィクション」といった分野があって、それらを意識して派生しました。どれも大事にしているのは、メインストリームにある「こうなるよね」という未来とは違う未来観に一歩踏み出すためにはどうすればいいのかということです。派生の内容は違うけれど、同じ心を持っていると思っています。
どのメソッドもOSが一緒で、アプリが違うだけというのはあると思います。だから変にお互いがポジショントークしないことが大事です。
大橋 メモ帳で文章を書く人がいるけれど、Wordの方がもうちょっとやりやすいかもしれないよとか。プレゼン資料ならWordよりもPowerPointの方が便利かもしれないよとか。そういうイメージですよね。
石原 その通りです。物語を自分で作ったり、鑑賞したりして、そこに没入してインスピレーションを得ることが最終的には重要です。そのとき、どのような表現や手法が1番インスピレーションを受けやすいかは、人によって異なると思います。そこは好きな自分に合うメソッドを、自分と対話しながら選び抜いていけばいい。
そして、どのような方法で未来を考えるにしろ、「場の空気作り」が重要だと思っています。新しい未来とか、あるいは突拍子のない未来に起こるかもしれないワンシーンみたいなのを発言しようと思っても、どうしても抵抗感がある。
こうした抵抗感が生じるのは、僕らが今まで模範解答があるクイズ形式の教育を受けてきたからかもしれません。けれどもユニークな未来を思索するためには、模範解答はなく、たくさんの解答がある中の1つを抽出しなければならない。しかも、それが正解なのかも分からない。この思考は日本ではなかなか育まれません。
「何をやっても全然いいんだよ」という状態を空気として作っていくことが必要です。その空気を作るために、それをやって楽しんでいる様子を見せていかなければなりません。そこに、発想に寛容なSF作家やクリエイターが一緒に入ることで「かなり飛躍したことを話しているけれど、それでいいんだ。僕らもちょっとやってみようか」となるようにするんです。目の前でやって前例を見せる――SF作家やクリエイターがやっている柔軟な発想の壁打ちみたいなものを見せながら「じゃあ、一緒にやろうね」みたいな感じで空気を先に作っていくのが重要だと思っています。
SFプロトタイピングに興味を持つ企業が増えています。SFプロトタイピングを実施する上で気を付けたい、いくつかのポイントを理解していただけたと思っています。
そして僕は、imkp Lab.に参加してSFプロトタイピングを加速させることになりました。
SFプロトタイピングに興味がある、取り組んでみたい、もしくは取り組んでいるという方がいらっしゃいましたら、ITmedia NEWS編集部までご連絡ください。SFプロトタイピングを提供すると共に、この連載で紹介させていただきたいと考えています。
SFを使って未来を考える方法やポイントについて話してきました。SFプロトタイピングをはじめ未来を考える企業が増えた一方で、シナリオありきの“戦略的な未来”を作る傾向が出てきているといいます。
「期待しないで希望を持って。不安も一緒に引き受けることが、新しい未来を想起させる重要な要素です」――こう話す石原さん。
こちらの記事では、SFプロトタイピングの取り組み方を深掘りしていきます。
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