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23歳のAIBO、“引き際”はどこに 「ロボット死なない問題」などを3人の有識者が議論「AIの遺電子」と探る未来 番外編

» 2023年10月10日 16時30分 公開
[井上輝一ITmedia]

 「うちの研究室に23歳のAIBO(アイボ※)がいて、ソニーのエンジニアに修理してもらって動いている。でも引き際がない」──こう語るのは、京都大学総合博物館の塩瀬隆之准教授だ。

※2017年に新機種は「aibo」へと呼称が変わったが、言及しているのは初代機であるため「AIBO」と表記

 ChatGPTなど生成AIが登場した今、AI・ロボットがこれから日常生活により浸透していくことは避けられない。そんな未来をどう考えるべきか? AI・ロボットとどう付き合っていくべきか?

 TVアニメ「AIの遺電子」原作者の山田胡瓜さんと、日本科学未来館が11月に公開する、ロボットと未来に関する新常設展示の監修に携わった塩瀬さんと安藤健さん(大阪大学大学院医学系研究科招聘教員)の3人が、日本科学未来館で10月7日に行われたトークイベントで議論した。

左から順に、日本科学未来館の科学コミュニケーター岩澤大地さん、TVアニメ「AIの遺電子」原作者の山田胡瓜さん、京都大学の塩瀬隆之准教授、大阪大学招聘教員の安藤健さん

ペットロボット、友達ロボット…… 一番いてほしいロボットは?

 トークイベントは、選択式のクエスチョンに対し来場者がスマホから回答し、その回答割合や回答理由を見つつ登壇者がディスカッションする、という形式で進んだ。

 最初の問いは「あなたが一番いてほしいと思うロボットは?」で、選択肢は「ペットロボット」「友達ロボット」「恋人ロボット」「家族ロボット」「ない」。開票結果は上位からペットロボット(35%)、ない(29%)、友達ロボット(23%)、恋人ロボット(10%)、家族ロボット(2%)となった。

「あなたが一番いてほしいと思うロボットは次のうちどれ?」に対し、会場からの回答で最も多かったのは「ペットロボット」だった
「家の犬がAIBOを2分で無視するようになった」と話す塩瀬さん

 山田さんは「友達ロボットにしたがペットロボットも悩んだ。でも本当に欲しいのはビジネスパートナー」と会場の笑いを誘う。

 塩瀬さんはペットロボットに。「AIBOが出たとき、2000年に1号機がうちの研究室に来たが、家にいた犬が2分で無視するようになった」というエピソードを披露。「当時は家族の一員として迎え入れることができなかったが、今だからこそもう一度来てほしい」と話した。

 安藤さんは「申し訳ないけど『ない』かな、今の自分なら。そんなに深い理由はないけど、それぞれ○○ロボットとついているが『ロボット』の部分はなくてもいい」と指摘した。

「AIの遺電子」を手掛ける山田さん

 これに対して山田さんは「この選択肢にあるのはいずれも関係性そのものに価値があるロボットたち。関係性を結ぶという、本来だったら生き物に望むものをロボットに望むのがありかなしか」と指摘した上で「僕の漫画では関係性に価値を持つロボットがたくさん出てくるが、まず実際に出てくるのはツールの方。工場でものを作るとか、家を掃除してくれるとか。だから、実際にロボットを研究している方が『ない』の選択肢を選ぶのはすごく真っ当だと思った」とした。

安藤さん。パナソニックホールディングスではロボティクス推進室室長も務める

 安藤さんは「もう一つ補足するなら、『ロボット』の前に『支援』がつくならいいと思う。例えば『家族支援ロボット』とか、家族の関係を円滑にしてくれるロボットだったら欲しい」という。

 ペットロボットを選んだ塩瀬さんは、ペットロボットに「もっとモヤモヤさせてほしい」と期待を寄せる。

 「AIBOを迎えた当時も、AIBOが階段から転げ落ちたときの修理方法が『メモリースティックの交換』。すると新しいボディーにメモリースティックを刺したからその子ですというのだが、その子が1カ月いるうちにぶつかって足をけがしていたが、そのけがが治って返ってきた。というときに、(メモリースティックによる)動きがあの子なのか、けがをしたあのボディーがあの子なのか。この子は一体どこにいるのか」──塩瀬さんはこんなモヤモヤを当時も抱き、「これからのペットロボットであればもっとモヤモヤするのではないか」と話した。

 会場からも「ペットが良いのは友達や恋人になると自分の理想を押し付けてしまう」「動物が好きだからペットロボットがいい」「関係性はいらないから機能性に徹してほしい」「ロボットと人間は同じ位置なのではないか」などさまざまな意見があった。

23歳AIBOとのお別れはいつなのか ロボットメーカーが考えるべきサービスの在り方

 話は進み、「デジタルクローン」、つまり自分や他人を複製したようなデジタル存在についての議論に。例えば現実にも美空ひばりさんの歌声を再現した「AI美空ひばり」が議論の的になったことがあった。

NHKの当時のページより

 こうした存在の是非について、安藤さんは「ツールとして見るのか、存在として見るのか。個人(故人)として見るのか、もっと分解した記憶やスキルとして見るのかで議論の仕方が変わるのでは」と投げかける。

 山田さんは「存在そのものを作るのは難しいだろうが、『まるで存在のようだ』と思えるものは実際に作れてしまう可能性がある。その扱いが難しい。それがデジタルゾンビのようになって、本人が死んだあとも残る可能性がある」と指摘。「そのときにこれは消せるのか。デジタル49日みたいなやんわり消えていくプログラムがあるのか。その辺のデザインは必要」とした。

 これに塩瀬さんも同調。「うちの研究室の初代AIBOは23歳。ソニーのエンジニアチームに修理してもらって動いた。でも引き際がない。だからデジタル49日とか、デジタル13回忌がないと別れられない」とモヤモヤした胸中を明かした。

1999年に発売された初代AIBO

 「人間が納得できる形で維持・消去できる物語作りまで考えたサービスの在り方を考えないといけなくなる。メーカーにとっては商品だが、それと時間を過ごした側にとっては、人によっては家族になる。すると『AIBOの葬式をしたい』とか、『メーカーサポートは終了しているけどなんとか修理したい』といった要望が出る。AIBOですらそうなのだから、ロボティクスがさらに進化したときに『商売成り立たないのでサービス終了します』でいいのか」(山田さん)

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