ITmedia NEWS > 製品動向 >

新macOS「Sonoma」のウィジェット機能に、オジサンがピンと来ない理由小寺信良のIT大作戦(2/3 ページ)

» 2023年10月10日 19時00分 公開
[小寺信良ITmedia]

キミは「DA」を知っているか

 筆者が自分用のコンピュータとしてMacintoshを購入したのは、1990年の事であった。当時付属のOSは漢字トーク6.0.4で、日本語OSとしてははじめてMultiFinder、つまりマルチタスク(疑似)となった最初のOSである。とはいえ、マルチタスクは異様にメモリを食うので、基本はシングルタスクで、いざというときだけマルチタスクへ移行するという使い方であった。

 シングルタスクでは、何かのアプリケーションを起動するとそれだけで画面が一杯になり、他のツールを平行して使う事ができない。それでは不便だということで、当時のClassic Mac OSには、「DA」(デスクトップアクセサリ)という仕組みが導入されていた。

 これは左上の林檎マークから呼び出せるミニツールで、アプリケーション使用中でも電卓やメモ帳、パズルゲームなどを起動することができた。閉じなければずっとそこにあるので、思えばこれがウィジェットの原型だったように思える。このDAはマルチタスク動作が標準となった「System 7」以降も搭載され、「MacOS X」になる直前まで続いた。

 DAで一番人気だったのが、「スティッキーズ」だ。これはデスクトップに貼り付く格好の「付箋」で、ちょっとしたメモやタスクを忘れないように貼り付ける事ができた。

System 7当時の「DA」とスティッキーズ(画面はエミュレータのキャプチャ)

 当時のOS構造では、「デスクトップ」は「Finder」の一部であった。ファイルを破棄する「ゴミ箱」がデスクトップに置かれ、ドライブもデスクトップにマウントされた。フロッピーディスクなどのリムーバブルメディアを取り出すには、デスクトップのメディアアイコンをゴミ箱にドラッグ&ドロップすると、アンマウントと電動のメディアイジェクトが、ワンアクションで可能だった。

 つまりメディア操作を行なうには、フォルダのウィンドウが被らないよう、デスクトップの一部を常に露出させておく必要があった。従ってディスプレイ上では最下層に位置するデスクトップに貼り付く「スティッキーズ」も、目に入る機会が多かったわけである。

「ウィジェット」の紆余曲折

 2001年に登場した「Mac OS X」は、NEXTSTEPがベースになったOSであったことから、これまでのUIとは考え方が大きく違っていた。「Dock」と呼ばれるランチャーが下部に配置され、使いたい時はいつでもオーバーレイしてくる。「ゴミ箱」もDockに格納された。メディアのアンマウントも、現在のFinder画面左側のメディア欄にイジェクトアイコンが付けられた。

 かつてデスクトップに貼り付いていた「ゴミ箱」は、使いたい時にいつでもオーバーレイされるようになり、メディアの排出もゴミ箱を使わなくて良くなれば、デスクトップに隙間を空けておく必要がなくなる。つまりMacOS Xのメリットは、デスクトップとFinderを切り離したことで、「画面全体をアプリ画面で埋めても構わない」という状況を作った。

 ちょうどコンピュータディスプレイも、ブラウン管から液晶ディスプレイに主軸を移していった時期で、ディスプレイ一体型iMacも液晶モデルに変わり、次第に大画面化していった。ディスプレイ面積を最大限利用できるMac OS Xはこうした流れと相まって、「従来の作法」から乗り換えるメリットがあった。

 「ウィジェット」という言葉が誕生したのは、2004〜2005年頃といわれている。Windows上のデスクトップに時計やカレンダーを配置できるユーティリティーとして登場した。2006年発売のWindows Vistaに「ガジェット」という名前で標準搭載されると、一気にその存在が知られるようになった。

 当時盛況だった「ブログ」でも、ページの左右に配置できるブログパーツとして、ウィジェットが登場した。カレンダーを表示しておき、更新された日付だけ色が付くなどの機能が提供された。

 賛否が大きく別れたWindows 8の「Modern UI」では、タイル状にアプリケーション アイコンが配置されるとともに、ある程度の情報も「ライブタイル」と呼ばれたタイル内で把握できた。これも一種のウィジェット的なものだといえる。

 今考えればやりたかったことも分かるし、先進的だったとは思うが、2012年という段階ではまだまだPCは専用ソフト動かすための器であり、東日本大震災直後ということもあり、SNSからの大量の情報は、フル画面表示でチェックする必要があった。当時スマートフォンの普及率も30%弱しかなく、情報の一部だけをちょこっとずつ見る必要性が薄かった。

 ご承知のようにその後のWindowsでは「Modern UI」が廃止され、Windows 7的なUIに回帰した。ただウィジェットという見え方のものとしては、Windows 10で搭載された「ニュースと関心事項」がある。タスクバーの右側に天気や気温が表示され、そこをマウスオーバーするとニュースなどがタイル状に表示される。これが発展してWindows 11では、タスクバー上に「ウィジェット」アイコンがあり、それをクリックすると天気やニュース情報が表示されるようになった。

 macOSでも以前からOSやアプリからの情報をまとめる「通知センター」は搭載されていたが、ウィジェットへの関心は薄かった。Appleでウィジェットが搭載されたのは意外に遅く、2020年9月の「iOS14」が最初である。macOSではそれを輸入する形で、2020年11月のBigSurに導入されたが、「通知センター」の中にとどまっており、外には出せなかった。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.