ビジネスでは「相見積りを取ったか」「根回ししたか」「想定収益を試算し、各前提の感度分析をしたか」などなど、“真面目にやる”ことへの圧力が常にかかります。しかし現実には真面目にやるほどビジネスインパクトから遠ざかっていくことも多いです。私はビジネスの成功には面白さが不可欠だと思っています。なので読書は“真面目さの重力”を脱出し、面白さに向かうきっかけづくりとして行っています。
ビジネスに面白さが必要であることを分かりやすく説明した本として「ストーリーとしての競争戦略」(楠木健著)が外せません。戦略について「お話にならなければならない」「ほどほど長くないといけない」と述べており、この本自体がとにかく面白いです。
アカウンタビリティー(出資者・債権者への会計説明の責任)を解除し、抜擢を伴う“気骨の人事”で傾いた事業を立て直した実例として「V字回復の経営」(三枝匡著)も秀逸です。裏では緻密な分析も行っていることが描かれており、成功するには真面目かつ面白くなければならないと痛感します。
真面目さという考え方が、いかに社会を蝕んでいるかを語った本として「官僚制のユートピア」「ブルシット・ジョブ」(いずれもデヴィッド・グレーバー著)があります。著者は人類学者です。社会学や人類学は時として、ビジネス書が無視しがちな建前や一般論から少しズレたところにある組織や社会の本音を言い当てることがあります。ここにはB2Bビジネスのヒントが眠っていることもあります。
かつてある同僚が「本には必ず嘘も書いてある。こんなキレイな話なわけがない、という嗅覚を持たずに鵜呑みにする人は失敗する」と言っていました。著者が書かなかったこと、それとなく流したこと、その背景も考えると読書はなおさら面白いです。私自身も面白い話ができ、また人の話に面白い突っ込みを入れられる経営者を目指しています。
東京大学教養学部卒、同大学院総合文化研究科修士課程修了後、マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社にて製造業を中心に日本企業クライアント向けの戦略立案・全社変革案件のコンサルティングに従事。2018年3月よりLegalOn Technologies(当時はLegalForce)へ参画し、最高執行責任者、開発本部長に従事したのち、23年4月より現職。
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