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記者会見が全国民に精査される時代、ジャーナリズムに変化は起こるか小寺信良のIT大作戦(2/3 ページ)

» 2023年10月16日 16時00分 公開
[小寺信良ITmedia]

現場で何が起こったのか

 これを踏まえて、昨今のジャニーズの2回の記者会見を分析すると、1回目は明らかに謝罪会見である。新社長の発表など人事情報もあったが、基本的には事実確認も踏まえた上での謝罪会見であり、質疑応答も時間無制限で行われた。

 この質疑応答では、記者からは質問というより糾弾や叱責に近い「意見」が長々と語られるケースが多かった。この混乱した様子から、ネットでは単にメディアが爪痕を残したいだけ、といった厳しい意見が散見された。しかしその中で、新社長から「鬼畜の所業」というパワーワードを引き出すことに成功し、多くのメディアはそれをこぞって報じた。

 一方2回目の会見は、ベーシックに新社名発表という、報告会的性格のものである。新事実が発覚したのでなければ、謝罪会見は重ねて行なうものではない。ただ事件の性質上、性被害に対する補償問題があるわけで、質疑はそこに集中する事が予想される。初回の質疑応答は4時間を超える事態となり、それをリスクと考えたこと、また今回は謝罪会見ではないということから、終わり時間を設定するべきと考えたのだろう。

 加えて今回の質問は、1社1問というルールが設けられた。限られた時間の中でより多くの質問を受けるため、と説明されたが、質疑応答とは質問を上乗せしていくことで情報を整理したり、回答が避けられた場合に別の聴き方をして核心に迫るといった、「更問い(さらとい)」を行うものである。

あらかじめこうした制限を設けることは、発表会などのポジティブな会見で、タレントの拘束時間などの関係から行われることはあるが、ネガティブな会見では、基本的には悪手だといえる。

 記者には入場前に本日のアジェンダが配布され、1社1問というルールは事前告知されていたはずだ。それに納得出来ない者は入場できないわけで、この制限をクリアするため、ジャーナリスト達はあうんの呼吸で、誰かの質問に追加して別の人が更問いで追うという格好で共闘する事もある。

 この2回目の会見では、最初の2社は1問のみの質問であったが、3社目のTBSの記者が1度に2問質問したのを皮切りに、ルールが守られなくなっていった。マスメディアがルールを守らないのであれば、フリージャーナリストがかたくなに守る意義はない。この時点で現場ではおそらく、「共闘は無理」という雰囲気になったのだろう。

 さらに会見場が紛糾したのは、ジャニーズファンクラブ歴30年という女性ジャーナリストの、長々とした発言以降である。質問というよりは、現マスメディアへの批難とジャニーズ擁護とも取れる「意見」であった。会見の残り時間もあと20分を切ったところであり、いつまでも指名されないジャーナリストが司会者を無視して勝手に質問するという格好に崩れていった。

 会見の3日後、NHKはコンサル会社側が質問を指名しない、いわゆるNGリストを作成していたことを報じた。

 けしからん、と思われるかもしれないが、実際の現場では、メディアの扱いは最初から公平ではない事が多い。会場に遅れて入っても広報が飛んできてしっかり席に案内される者もいれば、そのまま壁際で立たされ続ける者もいるのが現実だ。自分たちにとって都合の良いジャーナリストと都合の悪いジャーナリストは、当然区別される。

 たださすがに、最初から全く指名する気がないというのは、大問題だ。だが指名の順番を後ろに回して時間切れになるなら、言い訳は立つと考えたのだろう。だが記者会見とは一種のライブパフォーマンスである。進行台本はあるものの、来場者は「観客」ではなく「モノを言うのが仕事」の者なので、場の流れや雰囲気によって生き物のように変化する。

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