10月1日より景品表示法の一部が改正され、「ステルスマーケティング」が規制の対象となった。法律を所管する消費者庁では、ステルスマーケティングを「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」と定め、ガイドラインを公表している。
ステルスマーケティング、いわゆるステマは、消費者にとっては身近な問題であり、筆者のようにネット上で製品レビューなどを行うライターにとっても、今後どのような点に注意すべきなのかをよく見極める必要がある。ただこのガイドラインの書き方が回りくどいこともあり、誤解や臆測を生んでいるのもまた事実だ。今回はこのステマ規制で、誰のどういう行為が対象になるのかを整理したい。
景品表示法における「表示」とは、商品を販売する事業者自らが商品を表示すること、平たく言えば宣伝広告することを指している。ステルスマーケティングとは、事業者自らが宣伝していることを隠して行われる「表示」のことを指す。
なぜ広告であることを隠す必要があるのか。それは利害関係のある者の意見より、中立に見える第三者の意見のほうがより信頼性が増すという心理的効果があるからである。この現象は「ウィンザー効果」と呼ばれている。
この第三者の行為としては、2つのパターンがある。1つは、いわゆる「インフルエンサー」と呼ばれる人達が行うもの。有名人が「この製品がいい」と言えば、多くの人が興味を持ち、購入に走る。それが本人の自由意志であればただの発言だが、裏で金銭の授受などがあり、本来ならば広告と言うべき行為であるのにそのことを隠していると、「ステマ」という事になる。
これで有名な事件が、2012年12月に発覚した「ペニーオークション詐欺」である。もう10年以上前の話なので忘れている人も多いと思うが、ペニーオークションは、入札手数料型のオークションサービスだった。ここで販売予定のない商品を高額でオークションにかけ、入札者から手数料をだまし取る詐欺で、運営者が逮捕された。また複数の芸能人が、高額商品を格安で落札購入した旨の虚偽の内容を自身のブログなどで紹介し、紹介料を得ていた。当時はこのような「ステマ」を規制する法律がなく、芸能人で立件されたものはいなかったが、社会的な信頼を失ったタレントも多かった。
このインフルエンサー型ステマは早くから米国で問題になっており、カリスマ主婦的なインフルエンサーが企業から利益を得ながらそれを隠し、公平な立場を装って商品やサービスを褒めるなどしたことが問題視された。そこでFTC法(アメリカ連邦取引委員会法)の指針により、すでに2009年から規制対象となっている。それから考えると今回の規制は遅すぎるぐらいで、日本市場ではインフルエンサー型ステマが14年も放置されていたことになる。
ただそれも理由があると言えばある。日本は米国と違い、ネット上に強力なインフルエンサーがおらず、その人の一言で売上がガラリと変わるといった状況にはなかった。
日本ではインフルエンサーよりも大きな効果があったのが、第三者行為の2つ目、「クチコミ」だ。Amazonには商品ごとに一般人がレビューを書き込めるし、価格.comのような価格比較サイトでも、商品ごとにレビューや口コミが投稿可能だ。日本のネット社会では、一般の人が盛んに製品評価を発信する傾向が高く、そこが一種のコミュニティー化しているという特徴がある。
これが本当に自腹購入者が忖度なく書き込んでいればいいが、利害関係者が第三者を装って書き込むことは比較的容易であり、自社製品やサービスを褒めるだけでなく、競合他社をおとしめるような書き込みを組織的に行うという状況に発展した。
これで記憶に残るのが、2012年1月の「食べログやらせ騒動」だ。カカクコムが運営する飲食店検索サービス「食べログ」のランキングを上げてやるとして、飲食店に金銭を支払わせてヤラセの高評価書き込みを行うという事業者の存在が発覚した。逆に支払いを拒否した飲食店には低評価の書き込みがされるなど、その悪質性が目立ったのも特徴である。
日本においては、インフルエンサー型ステマよりも、口コミ型ステマのほうが問題化するのが早かったのだ。ただ当時は景品表示法にステマ規制がなく、こうしたヤラセ業者に対しての行政処分ができず、食べログ側が独自で規制を行うに至った。この騒動からカウントしても、2023年でもう11年だ。
近年の問題としては、皆さんも経験があるかもしれないが、Amazonで何か小物を購入すると、製品箱の中にAmazonで星5つのレビューを書いてくれたら数千円分のポイントを付与するなどと書かれたカードが同梱されている事がある。口コミ型ステマは専門事業者の組織的な行為だけでなく、企業側から普通に行う行為となった。もはや一般消費者も、いつなんどき巻き込まれるか分からない状況にある。
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