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「ステマ規制」スタートで混乱も? 「ステマ」は何が問題なのか、改めておさらいする小寺信良のIT大作戦(2/2 ページ)

» 2023年10月19日 10時00分 公開
[小寺信良ITmedia]
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景表法の限界と混乱する事業者

 今回の改正景表法では、上記2パターンのステマが違法になる。では具体的に誰が処罰されるのか。これは景商法の性格から、表示(広告)する事業者となる。逆に言えば、そこが景商法の限界という事になる。

 インフルエンサーや口コミ投稿者は、処罰の対象ではない。またヤラセ口コミ業者も、「自製品を表示する事業者」ではないので、対象にはならない。あるいは量販店の売り場にて、店員のような姿をしたメーカーからの販売応援員が自社製品ばかり勧めてくることがあるが、これも「表示」ではないので対象外である。

 これでは規制にならないのではないかと思われるかもしれないが、少なくとも事業者側が今後はステマを依頼することができなくなる。ヤラセ口コミ事業者も、お店側がどこもお金を出さなくなるので、必然的に事業が成り立たなくなるというわけだ。

 違反した事業者の処罰だが、行政規制という性格から、まずは再発防止を求める措置命令が出され、事業者の名前が官報などを使って公表される。これだけで事業者としては株価が暴落するなど十分なダメージがあるわけだが、措置命令に従わない場合は、2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される。

 Amazonや楽天といったEコマースサイトは、今回の直接の規制対象事業者には該当しない。だがそこで販売を行っている事業者がバンバン摘発されてしまうようでは、あそこは怪しい事業者ばっかりだといった具合に、ブランドイメージが毀損されてしまう。措置命令が出された事業者の締め出しはもちろん、自社でも積極的なチェックを行う必要が出てくるだろう。

 事業者としては痛くない腹を探られたくないという事か、ある企業は一部付き合いのあるライターに、レビュー用に貸し出しまたは提供して記事を執筆する場合は「製品提供:○○(社名)」といった表示を行うよう「お願い」があったという。

 このことは、ライター界でも困惑が拡がった。もともとガイドラインには、「(2)新聞・雑誌発行、放送等を業とする媒体事業者(インターネット上で営む者も含む)が自主的な意思で企画、編集、制作した表示については、通常、事業者が表示内容の決定に関与したといえないことから、事業者の表示とはならない」と書かれているからである。つまりメディアに掲載される通常記事は、本規制の適用外と読めるからだ。

 もちろんこれにはただし書きが付いており、「正常な商慣習を超えた取材活動等である実態(対価の多寡に限らず、これまでの取引実態と比較して、事業者が媒体事業者に対して通常考えられる範囲の取材協力費を大きく超えるような金銭等の提供、通常考えられる範囲を超えた謝礼の支払等が行われる場合)にあるかどうかが考慮要素となる」ともある。

 少なくとも試用した後に返却する「貸出」は、提供とはいえない。提供は返却せずそのまま与えることなので、貸し出しに対しても提供:○○と書くのは事実に反するのではないか。またランキング等で複数の製品を扱う場合、1社だけこうした記述があると公平性に問題が出るのではないか。あるいは書く必要がない情報の記載を強要するのは、編集権の侵害に当たるのではないか。さらに深読みすれば、通常記事にも広告記事にも全てに「提供」と書いてあれば、広告記事だということがカムフラージュされてしまうのではないか。

 もし指示に従わない場合、今後の製品貸し出し依頼に対して支障が出るかもしれず、ライターにとってはなかなか問題が深い。当面同社の製品レビューは見送るしかないのでは、という意見も出たが、結果的には「お願い」なので、メーカーの指示に従うかどうかはライターの判断ということになった。

 運用ガイドラインを読んでも、これはOK、あれはNGといった線引きが明確になっておらず、全編に渡って「総合的に考慮」という文言が散見されてる。だがそもそもの目的は、インフルエンサー型と口コミ型の「大掛かりで明らかなステマ」の排除であり、小さい案件や該当するのかしないのか微妙なラインのところは「総合的に考慮」なのである。あらゆることが該当しそうな気がする書きぶりが混乱の元になっているが、そうした「抜け道はありませんよ」的な萎縮効果も狙ってのことだろう。

 少なくともこれまで当たり前に行われていた、正常な商習慣にのっとった言論活動が全て規制の対象になるわけではない。それは一般記事にも広告記事にも当てはまる。シンプルに、広告は広告と分かるように書け、という話だ。

 価格.comのレビュー欄では、今回の規制が行われるずっと以前から、商品を借りたのか、買ったのか、もらったのかを明確に書けというルールが導入されている。記事に忖度があるのかないのかは、読み手が判断しろという事だろう。こうした出所に関する明示も、今後は一般記事でも普通になっていくかもしれない。

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