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King GnuのMVや特撮でも活躍 空間を“召喚”する「バーチャルプロダクション」とは 裏には意外な技術も(3/4 ページ)

» 2023年11月09日 16時30分 公開
[山川晶之ITmedia]

バーチャルプロダクションにマストな「Unreal Engine」

 Unreal Engine(UE)は、米Epic Gamesが1998年にリリースした人気タイトル「Unreal」向けに開発したゲームエンジンで、世代を重ねつつ今では「Fortnite」はじめ世界中の3Dゲームで採用されている。リアルタイムレンダリングの品質に定評があり、2021年に公開されたUE5の技術デモ「The Matrix Awakens」は、「もう実写じゃん……」などと話題になった。

 インカメラVFXは、ゲームと同じようにUnreal Engine上で動くバーチャル空間を使用する。演者を撮るカメラの位置や方向などをトラッキングし、バーチャル空間内に設置されたバーチャルカメラの動きと合わせる。バーチャルカメラが捉えた映像はLEDウォールに表示され、実際のカメラで再撮影することで“動く背景”を実現している。つまり、デモに出てきた図書館はバーチャル空間ということになる。

バーチャルプロダクションは、予め用意した3DCGを背景としてLEDウォールに表示させ、それと実際のカメラを連動させることで実現している

17Kでリアルタイムレンダリングってできるの?

 とはいえ、ゲームエンジンは「Unity」などいろいろある。なぜUnreal Engineが使われているのだろうか。

 ソニーPCLの遠藤和真氏によるとUnreal Engineが「ほぼ一択」と語る。「米Epicがゲームを作る以外にも(Unreal Engineの利用用途を)充実させていることもあり、映像制作にもゲームエンジンが使われるようになった」「ゲームエンジンはAIも使いながら、かなり描画の処理が単純化されている。(UEは)アセットをそろえやすいし早く作れる。カメラも配置しやすいので、ゲームだけじゃなく映像制作にも使いやすい」(遠藤氏)

 しかし気になるのが解像度だ。出力先は17KのLEDウォールである。Unreal Engineがリアルタイムレンダリングに優れているとはいえ、ハイクオリティーなアセットを自在に配置しつつフレームレートも維持させるには、かなりのコンピューティングパワーが必要になる。

 それを実現するが分散レンダリングだ。清澄白河BASEではLEDウォールを10のエリアに区切り、それぞれを10台のPCでレンダリング。出力した各映像を専用のプラグインで1つのコンテンツに統合し、LEDウォールに送出しているという。実際にLEDウォールの映像を見ても描画がズレている印象は全くなかったが、エリアの境目でアセットがズレないよう、バーチャルプロダクションのワークフローにはアセットの最適化が組み込まれているという。

通常時はWindows画面が表示されているが、タスクバーの右端と左端が隣り合っていることから複数のPCをつなげて表示させているのが分かる

 この方式が優れているのが拡張性の高さだ。LEDウォールをより広くしたい場合も、拡張するLEDユニットと、そのエリアを描画するPCを追加すれば対応できるという。もちろんPCにはハイパフォーマンスなGPUが必要となるが、専用のサーバを追加するよりも柔軟性は高いという(なお、清澄白河BASEには映像用にソニーPCLのメディアサーバ「ZOET 4」も接続されている)。

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