このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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デンマーク工科大学とイタリアのモデナ・レッジョ・エミリア大学に所属する研究者らが発表した論文「Magnetic levitation by rotation」は、回転する磁石の数cm下で別の磁石が安定して浮上する現象についてのメカニズムを明らかにした研究報告である。磁石は浮上するだけでなく、回転する磁石を横向きにしたときも落ちることなく、一定の距離と角度を保ちつつ固定したかのように浮上を続ける。
磁気浮上は、磁気の反発力を利用して物体を浮かせる技術である。同じ極同士の磁石が互いに反発する性質を基にしている。この技術の代表例は、磁気浮上式鉄道である。摩擦を減少させることで、高速走行が可能となる。
2年前に新しい磁気浮上法が発見された。この技術は、2021年にハムディ・ウカル氏によって初めて実証された。彼はモーターに1つの磁石(ローター)を取り付け、磁石の極間の軸がモーターの回転軸と直交するように配置。ローターは約1万rpmで回転し、第2の磁石(フローター)の上に持っていくと、フローターが動き始めて浮上し、ローターの数cm下で宙に浮かんだ。
この磁気力は、フローターを上方向に持ち上げるだけでなく、システムの回転軸が水平であっても、フローターは固定されたように一定の距離を保ち、安定して浮上した。
21年の初期の研究では、浮上力のための説明や多くの実験構成を示したが、フローターの回転の動きを安定させるメカニズムについては明らかにされなかった。この研究では、このメカニズムを解明した。
研究チームは市販のネオジム磁石と接着剤、電動工具を使用して自宅で浮上実験の設計を行った。直径19mm、磁場強度約1.2テスラの球状のローター用磁石を、7500rpmから1万7000rpmに調整できる垂直ドリルの駆動軸に取り付けた。フローターとして、直径5mmから30mm、磁場強度1.2テスラの球状磁石を使用した。モーショントラッキング技術を利用して、浮上する磁石の動きを詳しく分析した。
分析の結果、研究チームは、浮上するフローター磁石が垂直な方向を向きながらも、軸に対してわずかに傾いた位置を取っている現象を発見した。この現象の原因を探るため、数値シミュレーションを行った結果、ローターの回転がフローターにも回転力を与えていることが判明。これにより「ジャイロ効果」が生じ、回転するフローターは外部の力に抵抗していると分かった。
ジャイロ効果とは、回転する物体がその回転を妨げようとする外部の力に対して抵抗する現象である。例を挙げると、コマを思い浮かべれば良い。静止しているコマはすぐに倒れるが、回転しているコマはしばらく立ったままで、さらに横から押しても回転したコマは容易には倒れない。
このジャイロ効果により、フローターはローターの軸と完全に平行にはならず、この特定の傾きが特定の磁場を生み出し、フローターを引き寄せる力と反発する力のバランスを保っていることが分かった。
また、フローターのサイズが浮上に影響を及ぼすことを確認した。フローターが小さいと、浮上させるためにはより高速な回転が要求され、その結果、浮上する位置も高くなると分かった。
Source and Image Credits: Joachim Marco Hermansen, Frederik Laust Durhuus, Cathrine Frandsen, Marco Beleggia, Christian R.H. Bahl, and Rasmus Bjork. Magnetic levitation by rotation. Phys. Rev. Applied 20, 044036 ? Published 13 October 2023
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