米カリフォルニア州やテキサス州で自動運転タクシー(通称ロボタクシー)のサービスを展開していたGeneral Motors(GM)傘下の米Cruiseが、相次ぐ事故を受けて営業を停止した。米国では、Alphabet傘下の米Waymoも自動運転タクシーでしのぎを削る。しかし公道を走る自動運転車が予想外のトラブルで動けなくなって人間の助けを必要とする騒ぎも発生し、安全性や実用性を巡る論議が続いている。
サンフランシスコ市内の交差点で信号待ちをしていたCruiseの自動運転タクシーは、信号が青に変わって交差点に進入した。そこへ歩行者の女性が赤信号を無視して横断を始め、Cruiseタクシーの隣の車線を走っていた日産の乗用車(人が運転)にはねられた。女性はCruiseタクシー前の道路に投げ出され、Cruiseタクシーは急ブレーキで停止したものの、女性は車の下敷きになった。日産車は現場から逃走し、運転手はまだ見つかっていない。
Cruiseタクシーは車体の下部にセンサーがなかったことから、女性が下敷きになっていることを認識できなかった。それでも衝撃は検知していたため、道路をふさがないよう路肩の方へ移動しようと6mほど走行した。このため女性が引きずられ、車輪が女性の片足をひいた状態で停止。救急隊が駆け付けて、ようやく女性を救出した。
この事故が起きたのは現地時間の10月2日夜だった。しかしCruiseのタクシーはその前にも衝突事故を起こしたり、緊急車両の通行を妨害したりしたことがあった。CruiseとWaymoのタクシーは良くも悪くも話題になる。ちょっとしたトラブルで動けなくなったり交通渋滞を引き起こしたりする騒ぎが起きるたび、SNSに現場の映像や画像が投稿されて注目を集めた。
当局は、そうした場合は交通の妨げにならない場所に移動させるよう両社に要請しており、10月2日の人身事故を起こしたCruiseのタクシーが場所を移動したのは、その想定通りの動きだったという。
CruiseとWaymoは共に、カリフォルニア州公益事業委員会(CPUC)から8月にサンフランシスコでの自動運転タクシー営業許可を取得していた。Cruiseはワシントン州シアトルや首都ワシントンにも進出する予定だった。
しかし同州車両管理局(DMV)は10月24日に「同社の車両の公共運用は安全ではないと判断した」「同社が自動運転技術の安全性に関して誤った情報を提供した」などとしてCruiseの営業許可を停止に。サンフランシスコの消防局長も消防車との衝突事故を受け「まだ機は熟していない。彼らは私たちの業務を妨害し、公共の安全に影響を及ぼしている」とCNBCにコメントし、自動運転車の実用性に疑問を突きつけた。
10月26日にはCruise自ら、全米で自動運転タクシーの営業を停止すると表明した。
ただしCruiseもWaymoも、自動運転車は人が運転する車に比べてはるかに安全性が高いとする主張は崩しておらず、事故件数の大幅な減少につながるとアピールしている。
Cruiseが米ミシガン大学などと共同で実施した調査によると、Cruiseの自動運転車は人が運転する車に比べ、衝突事故の発生率は65%少なく、けがを負わせるリスクの高い衝突事故の発生率は74%少ないとされる。さらに、Cruise側に責任のある事故は94%少ないという結果も出たとしている。
一方のWaymoはスイスの大手保険会社スイス・リーと共同で、Waymoの自動運転車がサンフランシスコとアリゾナ州フェニックスで走行した約611万kmに関連した保険金請求について調査した。その結果、人身事故に関する請求は皆無で、物損事故に関する請求は人の運転する車に比べて76%少ないことが分かったとしている。
Cruiseは10月2日の人身事故についても事後にシミュレーション実験を行った結果を発表し「もしも人間のドライバーではなくCruiseの自動運転車だったとしたら、歩行者を検知してよけることができ、歩行者は無事だった」と結論付けた。「交通量の多い都市環境において、Cruiseの自動運転車の方が人間よりも安全なことは記録で示されている」と同社は強調する。
同社はこうしたシミュレーション結果を盛り込んで、引き続き安全性の向上を図る方針。カリフォルニア州の自動運転タクシー運行許可は取り消されたわけではないものの、営業再開のめどは明らかにしていない。Cruiseはホンダと組んで日本でも2026年から自動運転タクシー事業を開始する計画を10月に発表したばかりだが、この計画への影響も見通せない。
一方、Waymoはサンフランシスコとアリゾナ州フェニックスで自動運転タクシーの営業を続けており、ロサンゼルスとテキサス州オースティンにも進出を予定している。
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