企業や自治体での活用が進む生成AI。すでにベネッセホールディングス、KDDI、三井不動産、神戸市などが、文章生成AIの活用を始めている。一方で、大学などの教育機関はまた別だ。業務改善を目的とした利用についてはまだ企業や自治体ほどに積極的ではなく、ベンダーなどが公開している事例も多くない。
とはいえ、いちはやく生成AIを業務改善に生かそうとする大学もある。例えば武蔵野大学では、7月末に生成AIを活用した新しい学内チャットbotを開発。主に学生向けの問い合わせ窓口の一つとして、すでに利用を始めている。実際に利用する学生も出てきているという。
開始から約3カ月。同学による生成AI活用は、いまどんな状況にあるのか。同学の森智恵さん(DX・システム部 DX戦略企画課)と菅原大嗣さん(同課長)、生成AIの導入・活用を支援しているウルシステムズ(東京都中央区)のITコンサルタント・坂本浩一さんに話を聞いた。
武蔵野大学は、東京都江東区や西東京市にキャンパスを置く私立大学だ。付属校や通信教育部を含め1万3000人超の学生・生徒が所属している。生成AIを活用した学内チャットbotはこのうち大学生を対象としたもので、学内システムや学内で使うICT機器についての相談を受け付けている。
そもそも武蔵野大学では、2022年度にPCのBYODを始めたことをきっかけに、AIを使わないシナリオ型のチャットbotを導入していた。ICT環境に関する学生からの質問に答える用途で使っており、1年間で約1万件の質問があったという。しかし、事前に想定した応対以外はできないシナリオ型だったこともあり、学生からの多様な質問に対応し切れる訳ではなかった。結局は職員に相談がいくこともあり、満足な効果が得られていなかったという。
そこで目を付けたのが、当時注目を集めていた生成AIだ。「まずはチャットbotを生成AIで置き換えてみようと考えた」と菅原さん。教員の一人が元役員だった縁もあり、ITコンサルティング事業を手掛けるウルシステムズに依頼の上、1カ月程度でAIチャットbotを開発したという。
開発には、大規模言語モデル「GPT-3.5」などのAPIを米Microsoftのクラウドで使える「Azure OpenAI Service」を活用。ChatGPTのAPIを使う選択肢もあったが「Microsoftの基盤に比べると、ポリシーに不安があった」(坂本さん)ことからAzure OpenAI Serviceの採用に至ったという。
企業・自治体による活用と同様、入力した情報がAIの学習に利用されない仕組みも整えた。ただし、Azure OpenAI Serviceに組織独自のデータを参照させることで、より専門性の高い回答をさせる機能などはまだ利用していない。
取材を行った11月1日時点では、大学生約1万人に加え、まだ学内のICT環境に不慣れな非常勤講師など約1500人向けに提供しており、学内システムのアカウントを持っていれば利用できる。
ただし、実際の利用数はまだそこまで多くない。提供開始から約3カ月たった11月1日の時点では、利用人数は数百人程度。夏休みのタイミングでリリースした他、従量課金制であるAzure OpenAI Serviceのコスト増加を避けるべく、旧来のシナリオ型チャットbotもまだ併用しているため、あまり利用が伸びていないという。とはいえ、今後新入生が入学するシーズンなどに向け、利用は増える見通しだ。
並行して、実際に利用した学生へのアンケートも進めている。こちらはまだ集計中だが「リリース前に実施した、学生にAIチャットbotの返答を見てもらうテストでは、9割超が『前より回答の精度が良くなった』と答えた。アンケート結果も同様になるのでは」(坂本さん)と見立てている。今後はアンケートの回答を参考に機能追加や効果計測を進める方針で、少なくとも2024年7月ごろまでは使い続けるという。
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