岸田首相口パク動画を作成した男性は、11月4日にXにて「表現の自由戦士は俺を助けろ」と発言している。これは果たして「表現の自由」の問題なのだろうか。
表現の自由は、「こうしたAI動画」と一くくりにして一般論に落とし込むことはできない。あくまでもケースごとに判断していくのみである。原則として、誰かが「その表現は気に入らない」と考えたとしても、表現の自由を狭めてよい理由にはならない。だがその表現が「誰かの権利や自由を侵害する」のであれば、その表現は許されない。表現の自由とは、この2つのバランスによって保証されるものである。
今回の口パク動画についていえることは、岸田首相の名誉を毀損(きそん)していると考えられることから、表現の自由が保証される条件には欠ける。首相は公人であり、政治家としての批判は甘んじて受ける立場にあるが、今回の動画は卑猥な言葉をしゃべらせているだけであり、政治的批判にはあたらない。岸田総理自身が実際に名誉毀損として訴訟を起こすかどうかは分からないが、内閣官房長官が「重要な課題だと認識している」と述べていることから、政府から何らかのアクションがあるものと思われる。
近い将来、さらに巧妙なAIフェイク動画が当然すれば、一般の人にはそれを見分けることはできなくなる。それを法的に止める仕組みを作る事は、難しい。技術の進歩スピードに、法改正が追い付かないからである。
巧妙なAIフェイク動画に対抗可能な手段としては、映像や音声に関わる技術者が常にAI技術の進化に対応し、フェイクをフェイクと見抜ける目と耳と知識をブラッシュアップし続ける事だろう。そしていつでも「ここがおかしい、あやしい」と裏付けのある警鐘を鳴らせるよう、準備をしておく必要がある。
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