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「サム・アルトマン解任騒動」とは何だったのか Microsoftも得はせず(2/3 ページ)

» 2023年11月24日 13時00分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

「Microsoftが漁夫の利を得た」わけではない

 当初は「Microsoftが関与しているのでは」とも予想されたが、それは違うようだ。

 OpenAIは2019年3月、傘下に営利部門である「OpenAI LP」を設立している。ChatGPTをはじめとするビジネスはこの部門が運営している。ただ、営利部門はあくまで非営利組織としてのOpenAIの傘下にあり、OpenAIの運営は非公開の取締役会が責任をもつ。

 2023年1月、営利部門はMicrosoftから100億ドルの出資を受け、営利部門株式の49%をMicrosoftが取得している。同時に営利部門の株式は、今後の公開に向け準備中、との話が出ていた。

 クラウドコンピューティングサービス「Azure」を持つMicrosoftとの同調の結果としてChatGPTが運用可能となり、さらに、Microsoftを介してGPTシリーズを提供できることがOpenAIの影響力強化につながっているのだが、非営利組織としてのOpenAIにMicrosoftは直接関与しておらず、今回の退任騒動には直接関与していない。

 海外での報道によれば、Microsoftがアルトマン氏らの解任を知ったのも発表の1分前とされており、彼らにとっても寝耳に水だった、というところなのだろう。

 アルトマン氏らをMicrosoftに迎える、という話にしても「どんな組織にするのか」「どの部門に、どんな待遇で迎えるのか」といった詳細は未発表。Microsoftとしてのプレスリリースも、各自のコメントを出すだけにとどまっていた。

 すなわちMicrosoftとしても、「緊急事態なので瓦解しないようにコメントは出したものの、どう扱うか決めてから発表したわけではない」のだ。

 だから22日(日本時間)に「アルトマン氏CEO復帰」が決まると、Microsoftも即座に賛同の姿勢を見せた。

 GPTシリーズをはじめとしたOpenAIの技術が使えなくなるのは、Microsoftにとっても大きな打撃だ。「今動いているもの」は契約関係でなんとでもなるだろうが、開発中のものや今後出てくるものはそうではない。

 「結局Microsoftが漁夫の利を得た」という論評が多いが、筆者の意見はちょっと違う。OpenAIのリソースを自社内に取り込んで有利な地位を得たいというより、彼らは単に「あわててなんとかしようとした」だけなのだ。

 9月21日、Microsoftはニューヨークで、同社の「Copilot」技術に関する発表会を開催した。筆者はその場に参加していたのだが、サティア・ナデラCEOが冒頭に発した言葉が強く心に残っている。

米Microsoftのサティア・ナデラCEO。写真は2023年9月、ニューヨークでのイベントに登壇した際のもの

 「どういえばいいのか……今はすごくクレイジーな状況なんです。1社が市場を支配し、革新と活力を与えようとしている。まるで90年代の再来です。ソフトウェアのイノベーションをもたらし、このジャーニー全体を楽しむことができる場所にいるのは、非常にエキサイティングなことです」

 ここで出ている「1社」とはMicrosoftのことではない。OpenAIのことだ。OpenAIの動きに多くの人々が一喜一憂し、彼らが提供するコア技術の上に、Microsoftの施策も成り立っている。Microsoft自体も、ChatGPT発表以降の1年で提供したものとは思えないほど、矢継ぎ早にサービスを追加し続けた。結果としてサービス名と内容の関係が非常に分かりにくくなり、名称変更と整理が始まっているのはちょっと皮肉なことだが。

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