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「サム・アルトマン解任騒動」とは何だったのか Microsoftも得はせず(3/3 ページ)

» 2023年11月24日 13時00分 公開
[西田宗千佳ITmedia]
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「元のまま」が結局ベスト、騒動は衝動的なトラブルか

 アルトマン氏らがOpenAIに戻らなかった場合、Microsoftとの関係はどうなっていただろうか? これはなかなか興味深い話なのだが、実現しなかった以上「たられば」でしかない。

 ただ意外と、ナデラCEOは胸をなで下ろしているのではないかな、とも思う。

 というのは、Microsoftが単純にOpenAIを取り込むと、また「独禁法問題」が飛び出してくる可能性もあったからだ。

 OpenAIとMicrosoftの関係は絶妙なバランスにある。研究開発組織としてのOpenAIにMicrosoftは直接的影響をもたらしていないが、そこからサービスを展開する営利部門は実質的に支配している。そして、OpenAIがAIの学習を進めるにも、推論をサービスとして提供するにも、MicrosoftがAzureで提供する強力なサーバ群が必須になる。

 一方で、OpenAI自体が他社とサービスを提供したいと考えた時に、Microsoftが関与できない形も必須だ。その方が選択肢は広がり、ビジネス的にも有利である。

 Microsoftの快進撃を支えているのはOpenAIであり、OpenAIのビジネス導入を支えているのもMicrosoftである。この関係は両社にとって、是が非でも維持しなければいけないものである。

 OpenAIにとってMicrosoftは、演算力を与えてくれる貴重なパートナーだ。演算力は別のところでも得られるものなのだが、他社に切り替えるとなれば相応の時間がかかり、その間の研究が止まる。OpenAIにあるのは、極論「人材だけ」であり、歩みを止めれば他社に追い付かれてしまう。

 だとすれば、「OpenAIがMicrosoftに依存していても、OpenAI=Microsoftではない」今の形は理想的なバランスなのだ。

 今回の騒動でOpenAIのガバナンスについて疑念が広がったことは、OpenAIにとってもMicrosoftにとってもマイナスである。早急に解決に向かったのは、「新体制になることを誰も望まなかった」からだし、「混乱はマイナスしか生まない」からでもある。

 だとすれば、可能な限り素早く収拾を図るのは必然であり、そのための近道は「アルトマン氏らがOpenAIに戻る」ことだった……ということなのだろう。

 今回の騒動は、AGI(汎用人工知能)実現の方向性に関しての衝突、ともいわれる。ありそうな話だ。

 だが、AGIの実現はいつかも分からない。近づいている可能性もあるし、単なる「より賢い反応をするAI」が出てこようとしているにすぎないかもしれない。その方向性でもめていた可能性はあっても、AGIの実現にはMicrosoftのサーバ群が必要であり、いきなり他社に切り替えることもできない。

 正直こんなことはOpenAIもMicrosoftも分かっていたはず。

 だからこそ「お家騒動」が飛び出してしまったのは、論理的な考察の結果ではなく、衝動的な何かだったのではないか……と筆者は考えてしまうのだ。

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