中小企業のテレワーク率は、東京から1年ほど遅れて上昇し始めており、ビジネスチャットもいまが本格普及のフェーズだ。Chatworkのユーザー数も継続的に伸び続けており、登録ID数は2022年比15.6%増、DAU(Daily Active User)も7.7%のペースで増加しているという。
中小企業にフォーカスしてユーザーを広げるChatworkは、その顧客基盤を生かした新規事業として「BPaaS」というサービスの実現も進めている。BPaaSとは「Business Process as a Service」の略で、ソフトウェアではなく業務プロセス自体を提供するクラウドサービスだ。
全国的に人手不足が進む中、中小企業でもDX(デジタルトランスフォーメーション)が求められている。一方で、SaaSを導入すればDXが完了するかというと、そうもいかない。デジタル化に合わせて業務を調整したり、SaaSの導入管理を行うDX人材が不足しているからだ。
「『マーケティング、集客に苦労している』という中小企業に、マーケティングオートメーション(MA)ツールがいいですよ、SFA(セールスフォースオートメーション)がいいですよ、と言っても、『自分たちには無理』で終わってしまう。導入と運用のイメージが持てないからSaaSだけがあっても難しい」
中小企業のDXにおける課題について、ChatworkでBPaaS事業を推進する桐谷豪さん(インキュベーション本部 ビジネスユニット長 兼 DXソリューション開発部 マネージャー)はこう分析する。
そこで、ChatworkはBPaaSという新事業による問題解決を図っているわけだ。サービスの内容を実例から見てみよう。雑貨の輸出入などを手掛けるウエルカムコーポレーション(千葉県千葉市)は、ECサイトの運用をChatworkに依頼するところからスタート。その後、経理業務をまるごとBPaaS「Chatworkアシスタント」が引き受けた。
同社はもともと、経理担当者が退職した後、なかなか後任の採用が決まらず、顧問税理士も対応しきれない状況で、経理業務を回すための仕組みを構築する必要が生じていた。そこでChatworkに相談。同社がSaaSとチャットを併用する運用方法を構築し、実際に税理士との調整からSaaS導入・運用まで支援した。現在はSaaSを利用した経理業務自体のオペレーションもChatworkアシスタントが受け持っている。
つまり「課題発見、どこを変えてどんなツールを入れるかという業務コンサル、導入後の業務も巻き取ることで継続改善」(桐谷さん)までChatworkが行う形だ。ウエルカムコーポレーションでは、時間がなく諦めていた業務改善が実施され結果的にDXも行えたことになる。
ただ、ここまで労力をかけるサービスだと労働集約的でスケールしにくく、ペイしないのではないか──という懸念もあるだろう。「ポイントは正解の型を作れるかだ」と桐谷さんは強調する。業務に合わせてシステムをカスタマイズしなくてはならない大企業とは違い、中小企業の課題は標準的なSaaSであっても導入できるDX人材がいないところにある。いったん導入できれば、Chatworkアシスタントの業務は定型的な業務オペレーションが中心になる──というのが同社の見込みだ。
そしてBPaaSをなぜChatworkが行うのかといえば、中小企業との数多くの接点を持っており、セールスが行いやすいからだ。昨今、地方&中小企業はSaaSのホワイトスペースとして注目されているが、マーケティングと営業に課題があった。検索連動広告とランディングページによるプル型のマーケティングは、ITリテラシーが低い中小企業には響かない。そのため、多くのSaaS企業は地銀と手を組むなどして営業を進めている。
ところがすでにChatworkはビジネスチャットとして中小企業に入り込んでいる。企業としての安心感だけでなく、やりとりやサポートがChatworkを通じて行える点も強みだ。桐谷さんは「Chatworkアシスタントは圧倒的に成約率が高い」と自信を見せる。「DXを」ではなく「人手不足を解消しませんか?」というキャッチコピーで、「事務作業をオンラインで代行します」という提案から入ると中小企業の反応は非常にいいという。低コストで顧客を増やし、各社で共通となるDXの型を見つけていけば、提供コストも下がる。
Chatworkが目指すのは「ビジネス版スーパーアプリ」だ。単なるビジネスチャットの枠を超えて、Chatworkを通じて各種SaaSを操作したり、BPaaSを通じて業務を提供したり、ビジネスの起点となることを狙っている。SlackがAPIを通じてさまざまなSaaSと連携するところを、Chatworkは間に人が入ることでノーコードかつ柔軟な対応をできるというイメージが近いかもしれない。
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