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全然進まない「国民年金」のフルDX化 60歳を迎えた筆者が感じた制度設計の“気の利かなさ”小寺信良のIT大作戦(2/3 ページ)

» 2023年12月06日 17時30分 公開
[小寺信良ITmedia]

年金受給にまだ手帳?

 年金の支払い状況については、毎年ハガキか封書の「ねんきん定期便」が届いて、チェックできるようになっている。またマイナポータルと連携して、いつでも情報が見られるようになっている。年金を支払っている世代の人に向けては、DX化が進行しているように見える。

 一方で年金を受給する手続きについてはどうか。2022年4月から、年金手帳が廃止になったというニュースはご存じかと思う。これからは手帳の代わりに、「基礎年金通知書」が発行される。

 一方すでに年金手帳の発行を受けた人に対しては、改めて基礎年金通知書は発行されない。実際に年金を受給する段階になったときには、「基礎年金番号」が必要になるわけだが、これが確認できる書類としては、あいかわらず年金手帳が頼りなのである。

 もし年金手帳はもういらないと思って捨ててしまった人は、再発行手続きはできる。ただし再発行されるのは手帳ではなく、基礎年金通知書という事になる。要するに番号が分かればいいので、今のうちに基礎年金番号のメモを残しておくなどしたほうがいいだろう。あるいは手元に年金納付書や納付した領収書がある人は、そこにも番号が書いてあるので、予備として数枚とっておくといいだろう。

 年金をもらう場合の手続きは、めちゃめちゃ「紙」で「アナログ」だ。年金受給可能な年齢、現時点では65歳の誕生月の3カ月前に、日本年金機構や共済組合などから「年金請求書」が送付される。それに必要事項を記入して、戸籍抄本や住民票などを添えて市役所や年金事務所に提出するというだんどりになる。

 「年金の管理」という名目で、支払っている状況の確認はマイナポータルとの連携でDX化が完了している。そこが一番関係する人数が多いところであり、問い合わせも多いところだからDX化が有効なのは分かる。

 一方で年金受給手続きは、一定の年齢に達した人だけが毎年発生するだけで、紙とアナログで間に合うという感覚なのだろう。だがこの手続きは、65歳に到達した国民全員がいずれは必ず行うものであり、数としては今後も約1億回以上発生することになる。

 65歳のオジイチャン・オバアチャンが手続きするならIT化してもやり方分からんのじゃないかと思われるかもしれないが、筆者のちょっと上ぐらいの年齢から、PC黎明期を支えた歴戦の勇者がゴロゴロ居る世代である。受給手続きがオンラインでできないなど、何のためのマイナンバーかと大喝する受給者も出てくるはずだ。

気が利かない追納の制度設計

 筆者は2020年に家族全員で今の宮崎市に転居したわけだが、コロナ禍により収入減となり、1年間年金の全額免除手続きをした。60歳を迎えて自分の年金の支払いは終わり、今は収入も復帰しているので、その1年分を改めて追納することにした。

 9月に手続きして納付書が送られてきたのだが、1年分12枚の納付書全て納付期限が、来年の3月に設定されていた。まるまる1年分を、半年間で払えというわけである。まあ年度締めまでの納付書しか発行できないのかもしれないが、これはいくらなんでも制度設計として厳しくないか。2月に手続きしたら、1カ月で1年分を払わせるつもりなのだろうか。

 年金事務所に問い合わせたところ、支払期間の延長はできるとは言うが、そういうことじゃない。1年分の追納は同じ1年かけて払えるように、どうして最初から制度設計できないのかという話である。

 また納付は古いものから順に支払うようになっているのだが、納付書は全て同じ物で、左隅に何年何月分の納付なのかが書いてあるだけである。これを間違いなく順に納付せよ、という。

 妻の分もあるので毎月支払う納付書を仕分けていたところ、うっかり順番が1つ入れ替わってしまった。令和2年7月分より先に、8月分を納付してしまったところ、誤納付であるため7月分として充当するという通知が来た。

 早い方から詰めて納付するとそうなるかもしれないが、そうなると8月分の納付書がない。それはもう使ってしまったからである。8月分はどうやって払うのかとこれも年金事務所に問い合わせたところ、それでは8月分の納付書を再発行するという。

 これ、すでに納付してしまえばその月のぶんの納付書は手元にないということは、少し想像すれば分かりそうなものではないか。別の月に充当したのであれば、その通知と一緒に誤納付した月の納付書を再度送るべきだろう。もしそのままほっておいたら、どうなったのだろうか。その気の利かぬこと、岩のごとし。

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