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「ちゃぶ台返しはしない」 シン・エヴァ制作進行が見た“マネジャー庵野秀明”の姿(後編)(2/6 ページ)

» 2023年12月30日 10時00分 公開
[岡田ITmedia]

日本アニメ初、制作に取り込んだ新手法「プリヴィズ」とは

 例えばシステム開発なら、要件定義を基に仕様書、設計書を作って、不確実性を排除した上で開発に当たる。アニメの場合も一般的に、仕様書が脚本、画コンテが設計書。設計書である画コンテ通りに制作を進めることで、イメージ通りの作品ができあがる。

 シン・エヴァは、通常通り画コンテベースで作った部分もあるが、画・ビデオコンテを固める前に「プリヴィズ」と呼ばれる試作映像を作ったパートも多い。ここまで大規模なプリヴィズをアニメに取り入れたのはおそらく日本初。庵野氏の方針だ。

シン・エヴァでは、画コンテ・ビデオコンテを固める前に、プリヴィズと呼ばれる試作映像を大量に制作した(出典:「プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン」)

 プリヴィズの素材量は膨大だった。庵野氏の脚本をスタッフそれぞれが解釈し、バーチャルカメラやモーションキャプチャー、模型などを使ったり、現地にロケ撮影に赴いたりして、CG/実写映像や画像、画コンテを大量に撮影・制作。10万点近いカット割やアングルを素材として集め、庵野氏らが編集した。もちろん、結果的に使われず“無駄”になった素材も大量にある。

プリヴィズ制作で活躍したバーチャルカメラシステム(出展:「プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン」)

プリヴィズやロケハン、ラフなど膨大な素材から画コンテ・ビデオコンテが固められた(出典:「プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン」)

 「『新劇場版:Q』まではシステムの開発と同様の作り方で、大きな要件を決めてだんだん狭め、詳細が決まったところで物作りが始まり、根本的な立ち戻りはなかった。だがシン・エヴァではそうではない。アングル用の素材を大量に集めてプリヴィズの編集を続け、画コンテを確定させずにギリギリまで更新し続けることで、“不確実性”を保持し続ける作り方を選んだ」

 不確実性とは何か。庵野氏は「プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン」のインタビューで、このように答えている。

 「画コンテによるアニメ制作は効率がよく無駄が少ないが、そこに不満を持っていた。画コンテができあがった瞬間に完成画面に対する不確実性がゼロになり、画コンテより面白いものができあがらなくなるのが嫌だった」

 画コンテベースで作ると、コンテを描いた人のイメージを再現することになるが、“それ以上”のものはできない。あらゆる可能性を包含した「最高に面白いもの」を追求する庵野氏には、1人の頭の中の再現だけでは足りなかった。各スタッフの視点と解釈に任せて素材を大量に作らせ、それを組み合わせて試写映像(プリヴィズ)を作ることにしたのはこれが理由だ。

 アニメ業界では非常識な作り方に思えるが、面白い映像を作るための手段としては「合理的だった」と成田氏は評価する。「JAXAから転職した直後、『特殊なことをやっているよ』と聞き、バーチャルカメラを使ったプリヴィズ撮影を見に行ったが、当時はアニメ制作に関する知識も経験もなかったので、かえって特殊に見えなかった。なぜやるのかの説明を受けて、なるほどこっちの方が手っ取り早いと思った」

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