シン・エヴァに参加したスタッフは、のべ1127人・参加者数は217社。カラーのスタッフだけではなく、外部のクリエイター、フリーランスも数多かった。
プリヴィズ先行などの作り方はカラーのスタッフも初。庵野氏のこだわりに付いていくのも大変だが、数々の作品を仕上げてきたマネジャー・庵野秀明への信頼をベースに「狙いは分からないが、ひとまず言われた通りやってみよう」という意識が社内にはある。だが、外部スタッフはどうだったのだろうか。
「外部スタッフとの関係も、何年も前から構築していた」と成田氏は明かす。本格的な制作に入る前からカラー所属スタッフは、方向性が合うと確信できる外部スタッフを誘ったり、定期的にコミュニケーションをとったりしていた。「プリヴィズを作っている時も、アニメーションプロデューサーが『今回バーチャルカメラを使ってやっていて、今はこんな感じの画になっているんです』と、フリーランスの方々を訪ね歩いて紹介したり、進捗報告を兼ねた世間話を頻繁にしていました」
加えて、2014〜16年に、カラーとドワンゴが共同で行った、アニメーターに創作の場を提供する企画「日本アニメ(ーター)見本市」もハブになったという。
「見本市には、昔なじみの人から初対面のクリエイターまでが参加してくださり、カラーのディレクターに引き合わせる機会にもなったと聞く。フリーの方々は『他なら断るけれど、このクリエイターと一緒ならばやる』という仕事の選び方をされることもあるが、見本市で結果的に相性を見ることができたようだ」
成田氏は、多くのクリエイターの進捗を管理してきた。「いろいろなキャラクターがいて、予定や理想通り進まないことも多く、大変だった」と笑う。
人を動かす時に「こうすればOK」という一つの解決策はない。「地道にコミュニケーションを取り、一生懸命頑張るしかない。人同士なのでウマが合う、合わないが出てくることもあるが、作品を汚したい、足を引っ張りたいと思っている人は一人もいない」
成田氏は庵野氏の作業進行を管理する立場にもあったが、庵野氏を含めて「自分よりポジションが上の人に困らされるようなことはなかった」という。ただそれは、全員の進行がすばらしかった……というわけではなく、成田氏の個人的な感情もある。「シン・エヴァが自分にとって特別で、作品をいいものにしたいと思うから、相手が粘っていてもギリギリまで付き合えた」
「庵野さんは、作品のクオリティからスケジュール、コスト、どれもコントロールする側にいる一方で、クリエイターでもあり、編集作業をずっとやっていたい人でもある。カラーのスタッフは、庵野さんにとことんやってほしいと思っているが、おそらく彼自身のなかに『とことん時間をかけたい庵野』もいれば、『スケジュールを厳守したい庵野』もいる」
成田氏は庵野氏に「○○を来週末までに上げてください」など依頼することも多かったが、「とても率直でレスポンスが早かった。締め切りを超えたことは一度もなかった」と振り返る。「制作進行はアニメの体制図では末端だが、Avant2・Aパートを作っている時は、末端の僕ともほぼ毎日、複数回コミュニケーションしていた」
「“なぜならば”がしっかりしていたら、期日までにやってくれる。庵野さんは、作品を売る(プロデュースする)ことも含めて全体を見ている。遂行・完了させたプロジェクトが桁違いに多い庵野さんは、制作進行が見えているスケジュールとは異なる締め切りが見えることもある。アニメの進行について初心者だった僕よりも、実態に詳しい」
庵野氏の仕事量は「膨大」だったという。「自分の役割だと思っている仕事範囲が、おそらく日本国内で最も多い監督だろう。音響や宣伝からスタッフクレジットの並びも見る。かつ、ほとんどの仕事について、5年・10年やっている人より詳しい。手札や引き出しも多いし、スタッフが焦っていても、まだなんとかなるタイミング、自分が本気を出せば終わらせられるタイミングが正確に分かっている」
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